第2話 コド・モノ・コト

最近やられている「コド・モノ・コト」は、どんなプロジェクトですか?
磯野 萩原修さんと増田さんが、「子供のモノって、いいモノがないよね」っていう単純な動悸から、2005年5月5日に初められたプロジェクトです。デザイナーとかクラフト作家が集まって。私は2年目の「くーぐー展」という、子供と一緒に食べる道具の回から参加しました。
菅野 いいですよね。
磯野 実は当時、プロダクトデザイン業界で、女性で子持ちって珍しかったんです。
菅野 そう言えばそうだね。
磯野 ちょうど、子供に関係する活動を始めてみたいなって思っているときに、声がかかったので、やってみようかなと。
菅野 やってみてどうですか?
磯野 周りの方が、すごくあったかいこと考えていて、作品も気持ちのいいものが多いです。クラフト作家の方もいらしたので、プロダクトの展示よりも、もっと心のこもったかんじがあって、雰囲気がいいなぁと思って。
菅野 確かに。
磯野 なんでこんないいかんじなんだろ? って思っているうちに、この活動に深く関わるようになって、活動のあり方とか、デザインだけじゃなくてワークショップどうしたらいいかとかにも参加している、自分の中ではかなりウェイトの大きいプロジェクトです。
菅野 ちょっと遡っちゃうけど、ソニーから海外に移って、作風って変わった?
磯野 ソニーはけっこう緊張を強いるような、ばしっとかっこいいものをつくる会社なので、私その中では少し浮いていたのかもしれない。(笑)
菅野 あはは。(笑)
磯野 でも、あの会社のロゴをつけて、製品として世に出すので、それなりのクオリティーと雰囲気にしないといけないから、プロとしてお応えしよう! と思って頑張っていたんだけど、何かひとつ足りなかった。
菅野 うんうん。
磯野 そんなときに、女子校生向けのウォークマンをやらせてもらったんです。女子校生だから、「小型化」とか「かっこよく」とか「マニアックに」じゃなくて、少し外したところでウケるようなものって言われて。
菅野 なるほど。
磯野 それで、「わぁかわいい!」とか「わぁ欲しい!」とかってどんなことなのか、初めて真剣に考えたんです。そのとき、アイコンというか、顔つきというか、あるクオリティーなんだけど、かわいいというのが、自分にすごく合ってたんです。
菅野 うん。
磯野 それで作ったのが、透明でぷぅっとふくれたウォークマン。
菅野 これですね。
磯野 その後、家庭の事情で会社をやめることになって。会社を離れて、当時の自分を客観的に見てみると、やっぱり少し違ったかなって思いましたね。もっと自分に合った仕事があるかもしれないと思った。
菅野 それから海外に行ったんだっけ?
磯野 そうです。当時、スウォッチの電話のデザインをやってる会社に、ソニーのウォークマンの仕事を見てもらったら、「こういうのをやる人を探してた。」って言ってもらって。
菅野 結婚して、作風とか変わった?
磯野 少し前までは、布で何かつくろうと思ったこと無かったですね。堅いモノしかやったことないし、やりたいと思わなかった。でもね、なんかやってみたくなった。外から見たら、豆の形のウォークマンやったから、キノコの形のスリッパもやるだろうと思われていたかもしれないけど、自分の中ではあれってちょっと不思議なんですよ。
菅野 うん。
磯野 展示会の中で、他の人が色を使ってなかったから、面白くしてやろうと思ったのは確かなんですけど、まさか自分がああいう子供寄りの造形っていうの、やらないと思ってたなぁ。
菅野 そういう意味では このコド・モノ・コトはライフワークになるようなものだね。
磯野 そうですね。コド・モノ・コトのいいところは、必ず「子供と一緒に」っていうタイトルをつける。子供がいて、家族も楽しめる。子供も大人も一緒に楽しめるというテーマがあって、特別子供に媚びたようなアウトプットは必要ないので、続けられるなって思う。
菅野 あぁ、いいですね。
第1話 「これどうやってつくったと思います?」
第2話 コド・モノ・コト
第3話 お母さんがつくってくれたような温かさ。
第4話 企業にお勤めするのは、絶対にいいこと。
第5話 デザイナーは、絵を描くのが仕事じゃない。
第6話 もっと近づきたい。
第7話 普通のモノをつくるのは、けっこう勇気がいる。