第7話 普通のモノをつくるのは、けっこう勇気がいる。

菅野 僕がやってる「江戸意匠」のコンセプトって「床の間から日常へ」なんだけど、これは、伝統工芸というものが、道具から貴重品になってしまって、使われなくなってしまった。それをもう一度日常に戻したいという想いなんです。かっこいいけど、実は使い勝手が悪くて使われなくなっているものってけっこう多い。気楽に使えて、日常生活にマッチしたモノをつくるべきだなって思います。
磯野 そうですね。彫刻的な美しさを目指すのは、おかしいなって思います。プレス的にはそういうの、とてももてはやされるけど、そことは違ったスタンスでいきたいなって思ってます。
菅野 「火の道具展」での磯野さんの作品は、すごくそうだなって思う。ああいう普通のモノをつくるのは、けっこう勇気がいるんですよ。いるよね?
磯野 いる!
菅野 そのプレッシャーの中で、ずっと使っていったときに、愛着が湧くと思わせるようなものづくりをしていかなきゃいけないなって思うんだけど、どうしても我々って奇をてらったものづくりとか、メディア受けするようなことをしがちなんだよね。
磯野 今回は、益子の作家さんたちに対して、私は何かできるかなと考えたんです。私自身が買いたくなるようなモノでないと、売れないだろうなと思った。
菅野 そうですね。
磯野 かといって、私の造形を押し付けてもダメだし。地味でもいいから、使い勝手とかについて話し合える間柄になれたらいいなと思ってやったんです。
菅野 うん。
磯野 「火の道具展」には色んな側面があって、展示会であり即売会なので、展示会としての華もないといけないから。
菅野 でも磯野さんの「おちょこ」、あれもう売り切れちゃったよ。
磯野 えっ!? 私、あれ買いたかったのに!
菅野 もうないよ。(笑)
磯野 そうでしたかー。(笑)
最近、「モダン」という言葉が一般に浸透してきて、デザインに興味のない人も「○○モダン」と言うようになってきたように感じます。そもそも、モダンってなんでしょうか?
磯野 クラシック=装飾的とすると、モダン=装飾を排除したものですかね。
菅野 言葉そのものの意味だと、「近代的」とか「そぎ落とした」とかね。モダンっていうのは、ある単体に対しては言わないから、空気感みたいなものだと思うな。
磯野 そうですね。様式だと思います。
菅野 プロダクトではモダンってどう当てはめますかね?
磯野 やっぱり、全てそぎ落とされたものをモダンって言いますよね。
菅野 プロダクトは、そぎ落とすということを必ずやるよね。付加したりはしない。
磯野 しないですね。付加するとだいたい悪くなっちゃうから。グラフィックはまた少し違いますけどね。
菅野 いろんな機能が付加されると、その機能が主張してくるんだよね。それをバランス良くそぎ落としていくのが我々の作業であって、そこに装飾的なものを付け加えるってことに、あまり意味を感じてないなぁ。
磯野 そうすると、プロダクトデザインこそモダンかもしれないですね。
菅野 そうかもしれない!
磯野 最近少しずつ装飾的なプロダクトも出てきてはいるけれど、私たちはどっぷりプロダクト=モダン世代なんでしょうね。
菅野 プロダクトデザイン=モダン! これ、各方面から怒られそうだから、2人の間でってことにしておこうね。(笑)
磯野 そうですね。(笑)
菅野 いや、今日はありがとうございました。
磯野 こちらこそ、どうもありがとうございました。
第1話 「これどうやってつくったと思います?」
第2話 コド・モノ・コト
第3話 お母さんがつくってくれたような温かさ。
第4話 企業にお勤めするのは、絶対にいいこと。
第5話 デザイナーは、絵を描くのが仕事じゃない。
第6話 もっと近づきたい。
第7話 普通のモノをつくるのは、けっこう勇気がいる。