第5話 デザイナーは、絵を描くのが仕事じゃない。

フリーになられて、一番楽しいことはどんなことですか?
磯野 色んなことができることかな。方向性を自分で決められること。会社に入ったときって、先輩方がおもしろそうな仕事をやっているのを見ながら、自分はペーペーなお仕事をするわけですよ。
菅野 うんうん。
磯野 経験を積むと徐々に変わっていくけれど、担当が違ったりするとできないこともある。インハウスの場合、自分で何かやりたいと思うと、ものすごいエネルギーが必要ですよね。
菅野 そうですね。
磯野 でもフリーだと、例えばセラミックやりたいと思ったら、そっちに向かっていくと道が開けて行く。興味がある方に繋がれるというのが楽しい。
ものづくりの中で、ご自身が女性であるということは意識されますか?
磯野 女性ってお買い物好きですよね? もちろん、自分のもの買うのも楽しいし、スーパーで家族のものを買ったりして、買う経験が豊富だと思うんです。
菅野 そうですね。
磯野 私の家族では、実家も含めて女性の方がすごく吟味して買い物するんです。そのセンスって、モノをデザインするときに絶対に必要だと思うんです。
菅野 なるほどね。
磯野 かっこよくて洗練されたモノをつくるのもデザインだけど、自分的な小うるさい「これがなー! これがなければ買ったのに!」みたいなところのセンスって、商品をつくるチームに必要だと思う。
菅野 うんうん。
磯野 フリーになってビックリしたのは、家庭用品をつくるのに、おじさんたちが寄ってたかって。(笑) 私、それはちょっと違うと思って!
菅野 僕もその中の1人です。(笑)
磯野 いや、デザイナーが男性なのはいいと思うんです。ただ、みんな男性なのはおかしいと思う! たまたま私は立ち位置がデザイナーだから、デザイナーとしてできることをやろうと。あんまりやりすぎると、下世話なおばちゃんアドバイスみたいになっちゃうけど。(笑) そこはプロとして、普通の感覚っていうものをね。
菅野 デザイナーの役割っていうのは、年齢とか性別によって当然違うと思うんだよね。例えば、俺みたいな50代のオッサンが、20代の若いデザイナーと競い合っても仕方がない。磯野さんも色々な人生経験を積まれた中で、役割をきちっと表現できるデザイナーだからオファーがくる。性別と年齢によって、デザインする行為というのは違っていると思う。それぞれの役割を、みんながきちっとやることで、デザイナーの仕事って多岐にわたっていくのがいいんじゃないかと思う。そういう意味で磯野さんのような立ち位置の人、日本では少ないからね。
磯野 デザイナーって、絵を描くのが仕事じゃなくて、企画の段階にも関われるし、モノをつくる現場にも関われる。最後の、どう売ったらいいかっていうところにも関われると思うんです。プロジェクトの頭から終わりまで関われる職種だと思うので、良識のあるものづくりを方向立てていくお手伝いができると思ってます。
菅野 まだまだ「カタチをつくるのがデザイナー」という意識が強いけれど、カタチをつくるのはデザイナーの仕事の断片的な部分に過ぎないよね。やっぱりそこをちゃんと訴えていかないといけないね。
第1話 「これどうやってつくったと思います?」
第2話 コド・モノ・コト
第3話 お母さんがつくってくれたような温かさ。
第4話 企業にお勤めするのは、絶対にいいこと。
第5話 デザイナーは、絵を描くのが仕事じゃない。
第6話 もっと近づきたい。
第7話 普通のモノをつくるのは、けっこう勇気がいる。