菅野 |
この「Lotus」は、富山のコンペだっけ? |
磯野 |
そうです。去年の富山プロダクトデザインコンペティションに、招待作家として参加したときの作品です。コンペのテーマが「家族の暮らし」。 |
菅野 |
そうそう。思い出した。 |
磯野 |
今は、家族の暮らしって言っても人数も色々だし、子供がいたりいなかったりするじゃないですか。今どき「ファミリー! わぁーい!」みたいなのもちょっと違うなぁと思って。(笑) |
菅野 |
そうですね。(笑) |
磯野 |
自分の家に置き換えると、水周りのモノっていいものないなぁって思ってたんです。考えていくと、うちの洗面所に置きやすいカタチと、実家の洗面所に置きやすいカタチって違うなぁと思って。 |
菅野 |
確かに。 |
磯野 |
家族の暮らしって、それぞれの事情があるなぁって思って。そういうのに合わせて、家族の誰かがちょっとした工夫をしたりするじゃないですか。扉の内側に棚が付いてたり。 |
菅野 |
あるある。 |
磯野 |
そういうコトの素材になるようなモノをつくるのも、家族の暮らしのためのプロダクトかなと思って。 |
菅野 |
なるほどね。 |
磯野 |
よく見ていくと、歯ブラシ立ては全然いいモノがなかったんです。なんかこう、手持ちのコップとか、プラスチックの入れ物とか何でもいいんだけど、綺麗だなって思う容器に、歯ブラシを立てる穴がついたらいいなって思って。それなら、網みたいなものをつくったらどうかなと。 |
菅野 |
いいですね。 |
磯野 |
富山には、錫の鋳物を作ってるメーカーがあるんです。錫の鋳物って、くにゃくにゃ手で曲がるから、容器に合わせて網を曲げることが比較的簡単にできる。しかもガラスと錫ってすごく美しい組み合わせだと思って。錫って水を浄化する作用があるんですよね。 |
菅野 |
中国では昔、井戸に錫の塊を沈めてたんだよね。 |
磯野 |
水周りって気持ち悪くなりやすいから、錫はいいなと思って。それで手で曲げてるうちに、「あ、これ石鹸置きにもなる!」って。 |
菅野 |
なるほどね。 |
磯野 |
石鹸って、丸いのとか四角いのとか、買ってきたら座りが悪かったりするんだけど、これだったら形に合わせて、クックっと手で曲げたらいいし。あと、口の広い花瓶なら、花が寝たり寄ったりしないし。そういうのに使える素材です。 |
菅野 |
非常にいい発想だよね。 |
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磯野 |
ただこれ、なんて言って売ったらいいかわからなくて。(笑) |
菅野 |
昔さ、お母さんが毛糸でこう、手編みでコースターをつくってくれたような温かさが、金属なのにあるよね。 |
磯野 |
うわぁ!実はこれ、その通りなんです。(笑) |
菅野 |
あ、ほんと?(笑) |
磯野 |
私の母は、手編みで何でもつくる人で、植木鉢の下とか花瓶の下とか、テーブルの真ん中とかピアノの上とかね。そのときの経験がベースにあるんです。 |
菅野 |
その辺が非常にいい発想だと思うなぁ。古い職人さんじゃなくて、普通の人たちが普通にやっていたような技法を、プロダクトデザイナーが新しくデザインに置き換えるっていうのは、すごくおもしろいし新鮮だと思う。この辺は新たなプロダクトだよねぇ。 |
磯野 |
でも、それがやぼったくなったら嫌ですよね。それがすごく素敵になったらいいなぁ。ミキモトの花瓶とかは、一輪挿しの中が洗いにくいから、途中で切っちゃったりね。非常になんかこう、奥様っぽいというか。(笑) |
菅野 |
奥様っぽい。(笑) |