第8話 プロダクトにグラフィックを取り入れた走り。

菅野 僕から見た大友学っていうのは、プロダクトにグラフィックを一体化させた走り的存在と受け止めてるんだよね。
船越 はい。
菅野 この手ぬぐいもそうだよね。プロダクトの中に小気味好くグラフィックが入ってる。そういうところの走りじゃないかな?
大友 他にやってる人が・・・。寺田尚樹さんの作品は、グラフィック的ではありますよね。
菅野 あ、そうだね。
大友 グラフィックとプロダクトの垣根を考えると、今でこそ色んな方がいらっしゃいますけど、確かに走りの時代だったかもしれないですよね。
菅野 うん。
大友 付加的要素としてグラフィックをプロダクトに付けて目立たせようとするっていう考え方とは別で、表現の一環としてグラフィック要素が必然的なものであるプロダクトというか。
菅野 うんうん。
大友 グラフィックが抜けたらモノとして成り立たない。例えば定規は、目盛りと数字がなかったらただの棒じゃないですか。グラフィックとして情報が加わるから定規として成り立つわけですよね。
船越 はい。
大友 そのグラフィックがないとモノとして成り立たない濃度にしてるっていうんですかね。
菅野 そうだね。東レハンズプロジェクトのときも、手提げ袋のグラフィックにきちんと意味を持たせていたり。
大友 そうでした。
菅野 そこが大友学というデザイナーの、デザイン手法の神髄っていう気がするな。
大友 なるほどー。(笑)
船越 最近、3Dプリンターが個人で使える状況になってきました。自分のつくりたいモノを自分でつくれちゃう時代の中で、プロのデザイナーに求められるものって何だと思いますか?
菅野 それは、逆を言うと、昔はある一定の規模の会社がデザイナーを求めてたんだけど、今はほんとに小さい会社でもデザイナーを求めるような社会になったっていうこともあるんだよね。
大友 はい。
菅野 一次産業でもデザイナーが入り込んで、農業のブランディングをする世の中になってきたけど、僕らの若い時代そういうのは全然なかったからね。
大友 そうですね。
菅野 工業の企業だけがデザイナーを使える権利やお金があった。だけど今はそんなことあんまりなくなってきてるんだよね。
大友 うん。
菅野 これからどんどん多品種になっていく中で、デザイナーがどういう風に生きていくかって、ひとつの大きなテーマだよな。
大友 傾向として、垣根はどんどん無くなっていくでしょうね。なんとなくデザインという名前で、なんとなくデザインっぽいものが、なんとなく手元にあるようなかんじ。そんな気がします。
船越 デザインっぽいもの。
大友 うん。自分でつくったモノとか。僕ね、デザインできる人はデザインしたら良いと思うんですよ。
菅野 うん。
大友 誰がどういう品質や形状や効果を望むかって、色々だと思うんですよね。そこに通用しないデザインは淘汰されるしか無いと思うんです。だって形をつくることって簡単じゃないですか。見本も参考もたくさんあるし。
菅野 そうだね。
大友 コンビニエントな手法でしかつくれないコンビニエントなデザインというのは、いくところまでいくと、飽和するラインが現れるはずなんですよ。
菅野 なるほど。
大友 一方で、本当に工業的な手法で、ある程度の品質のものを均質に大量につくる場合は、工場の技術者とのやり取りが必要になるし、モノがどういう風につくられるのかっていうことを学んで、知識として蓄えておかないとどうにもならないっていうところは、今まで通り変わらないというか、むしろどんどん高度化していくはずなんですよね。
菅野 そうだね。
大友 傾向的には、色んなデザインが出てきて、3Dプリンタも含めコンビニエントにはなっていくと思うけど、実際にはあまり変わらない気がするかな。
   
  デザイナーに求められること、基本的には変わらないものなんですね。 続いては、デザインの力について。デザインにできることってなんですか?
第1話 就職する気にならなかった。
第2話 デザイナーの追っかけ時代。
第3話 行為を料理する時代の先駆者。
第4話 伝統工芸の手法でつくる工業製品の代表的なモノ。
第5話 表向きは金。裏を返すと、デザイン大好き。
第6話 クリエイトもするし、エディットもする。
第7話 どんなデザイナーよりも、菅野さんのことを知ってる。
第8話 プロダクトにグラフィックを取り入れた走り。
第9話 デザインにできること。
第10話 最近のお仕事。