第7話 どんなデザイナーよりも、菅野さんのことを知ってる。

船越 学さんは、菅野さんの教え子の中で、独立して成功している方の筆頭だと思います。
菅野 筆頭だね。
船越 それは、デザインをするというクリエイティブの能力に加えて、経営していくことやデザインの周辺にあることを俯瞰して見ることに長けているということだと思うのですが。
大友 経営は全然ダメだね。(笑)
菅野 いや、そうじゃないと思うな。やっぱり経営能力があるんだよ。
大友 えっ?
菅野 いや、あると思うよ。今はそれほど大きくないけど、50歳過ぎたらすごくなってるかもしれないね。いや、もちろん規模じゃないよ。やってる仕事の内容が、かなりすごいところまでいくのかなっていう期待感がある。
船越 さっきの年賀状の話もそうですけど、けっこう戦略的ですか?
大友 いや、あんまり考えてないですよね。
船越 そうですか。(笑)
大友 もちろん考えるところは考えますけど、どうやってこうなったかっていうところに対しては、完全にお陰様ですよね。
船越 なるほど。
大友 年賀状も楽しいからつくってただけだし、同じ名刺を配っても意味がないからつくってただけ。「名刺変わりました。」「またかいっ!」っていうコミュニケーションを生むためには、名刺変えないといけないし、それがないと喋ってくれないっていうね。
菅野 今、色んなプロジェクトに、色んな形で参加してるじゃない?
大友 はい。
菅野 やっぱりみんな、大友学という色が欲しいんだよね。
大友 でもミキモトのとき、
「山田さんに頼むとこういうデザインが上がってくるっていうのがわかるんですけど、大友さんに頼むとどういうかんじのデザインが上がってくるのかわからないんですよね。」って言われた事ありますよ。
船越 それはクリエイターとしては・・・。
大友 致命的だよね。(笑)
菅野 確かに、ミキモトの第1回目は、マイウェイだったような気がする。
大友 うん。
菅野 歳が一番若かったっていうのもあったし、周りにはけっこうなデザイナーがラインナップされてたんだよね。
大友 そうですね。
菅野 デザイナー同士で互いの作品について指摘するの、目の前で。これがまたキツいんだ。
船越 すごいですね。
大友 あの磯野梨影さんが意外とシビアで驚きましたね。
菅野 おもしろかったね、磯野さん。(笑)
船越 磯野さん、普段は柔らかーい感じがしますが。
大友 ほわ〜っとしてるんだけど、切り口に精度がある。スパッと精度良く切るから、切れてもまたくっつけられるし。切り口をつぶす切り方をしない、というか。
菅野 うん。
大友 尖る方向にいってる。それはすごいなと思う。一見するとふんわりとしてる感じがするんですよ。お子さんのこととかお話されてて。でも見る目はシャキッとしてる。
船越 学さんもわりとそういうかんじですよね。
菅野 うん。そう思う。
船越 アウトプットしてるものというより、向かっていく姿勢がかなり、ぴしゃーっと尖ったかんじします。
大友 人に対しては厳しいですよね。(笑) 人に対してはネチネチね。なぁ小澤?(スタッフに話しかける。)
小澤 そ、そんなことないです。(小声)
大友 鼻水垂れるまでやりますよ。同じ事何回でも言うし。
菅野 いやぁ、スタッフは幸せだね。(笑)
大友 かわいそうに。(笑)
菅野 ちょっとテーマ変える?
大友 いや、菅野さんと僕の話はね、これけっこう深いですよ。
菅野 そうなんだよなぁ。
大友 だって僕、自信あるもん。
船越 自信ですか。
大友 どんなデザイナーよりも、菅野さんのこと知ってるっていう自負があるんです。
船越 お付き合いも長いですよね。
菅野 デザイナー同士の付き合いっていう枠を超えてるからね。見透かされてるなって感じる時はあるね。
大友 またまた。
菅野 ほんとに。(笑)
大友 いやいや。
菅野 それだけしゃんとしてるんだよね。しゃんとしてこの業界を引っ張ってるのよ。あんまり寄り道しないし。
大友 そうですか? プラップラですけどね。
菅野 俺の方がよっぽど寄り道してるよ。(笑)
大友 でも、しゃんとしてるデザイナーは、もっともっとしゃんとしてるんですよ。僕、グラフィックもやったりしてるし。
菅野 うん。
大友 自分でプロダクトに先行投資して、プロトタイプつくって、展示会とかトレンドショーでメーカーを募るとか、お客さんを募るみたいなこと、あんまり経験がないんです。例えば山田佳一朗さんとは反対だと感じますね。反対だから興味もある。
菅野 そうだね。
大友 山田さんは、グラフィックはちゃんとデザイナーに協力してもらって、きれいにつくるし。それぞれのやり方があるんですよ。でも、それと比較して自分はどうなのかっていうことは、もうホトホト意味がないなと思っちゃってまして。
船越 はい。
大友 人と比較はしないです。参考にはするけど。
菅野 あぁ。なるほどなぁ。
   
  人との比較をやめた学さん。次回は菅野さんから見た学さんのデザイン手法のお話です。
第1話 就職する気にならなかった。
第2話 デザイナーの追っかけ時代。
第3話 行為を料理する時代の先駆者。
第4話 伝統工芸の手法でつくる工業製品の代表的なモノ。
第5話 表向きは金。裏を返すと、デザイン大好き。
第6話 クリエイトもするし、エディットもする。
第7話 どんなデザイナーよりも、菅野さんのことを知ってる。
第8話 プロダクトにグラフィックを取り入れた走り。
第9話 デザインにできること。
第10話 最近のお仕事。