第5話 表向きは金。裏を返すと、デザイン大好き。

船越 学さんから見て、菅野さんのデザイン手法はどう見えますか?
大友 うーん。・・・。
船越 言いにくいですか。(笑)
大友 いやいや。(笑)
船越 デザイン活動をされてきた時代背景が違うと思うんです。菅野さんは思いきりバブルの時代に活躍されて、大量生産、大量消費を良しとした時代を体感されてきたと思います。一方、バブルが弾けちゃった後、学さんの時代は違うじゃないですか。
学さんから上の世代を見たときに、どう見えるんですか?
大友 確かに違う。でも、10年くらいの時系列で見たときに、デザインの変遷を語るっていうのと、菅野さんのお人と成りをね、今までお付き合いさせていただく中で、こういう方なんだなという現時点での理解をもってお話するのと、ちょっと違うかんじがするな。
船越 菅野さんのお話を聞かせてください。
菅野 それ、聞いたことないね。
大友 菅野さんのデザイン手法ね。表向きは金ですね。
菅野 あはは。(笑)
船越 金ですか。(笑) それは、売れるとか利益が出るかとか、市場のニーズにマッチしてるとか、そういうことですか?
大友 市場のニーズにマッチしてるとか、そういうギラギラってかんじではないんですけど、システム的に原理的にハマってるのかハマってないのか。売れるというよりは、ハマるのか。
船越 ハマるのか、というと?
大友 お金の話に対して、仕組み的にハマってるのかハマってないのか。その可能性があるのかないのか。ある可能性の中でも、どれだけできるのかできないのか。儲かるのか儲からないのかっていうところを、ピッピッピッの中のピ。ピの中のピッピッピの中のピみたいなところ。(笑)
菅野 うん。(笑)
大友 そういう匂いが嗅げるんですよ。左脳を使わなくても、右脳でわかっちゃう。あ、いけるな、みたいな。表向きはね。
船越 表は。
大友 裏を返すと、かなり情熱的。
菅野 むふっ。(笑)
大友 本当はデザイン大好き。一見すると、割とドライに売れるものとかね、そういうところを指向していくと思いきや。
船越 なるほど。
菅野 企業と関わって、売れない物はつくりたくないんだよ。
「菅さんのデザインしたモノ、全然売れないですよ。」っていうのは、鳥肌が立つくらい嫌。絶対売りたい。
「ありがとうございます。」と言われたい。(笑)
大友 そうですよね。
菅野 逆に言うと、そこは外さない自信があるかな。それが良いデザインか否かっていうのは別の話ね。その企業のブランディングを考えたときに、例えば僕が納得するデザインを出しても、この企業の販売層に合わなければ活きていかない。自分が納得いかなくても、デザインを販売層に合わせるのもひとつの手法なんだよね。それは企業とお付き合いさせてもらう中でけっこうやってる。
船越 それは学さんが言うように、匂うんですか?
菅野 ピッピッピのピだよ。(笑)
船越 ピですか。(笑)
菅野 というかね、僕は工業デザイン出身だから、数売れないと気持ちが悪いんだよ。(笑)
大友 便宜上、嗅覚って呼んでますけど、わかるんですよね、きっと。
「あ、いまCPU働いてるな。」っていうのが見えるくらいわかる。
それは人それぞれに嗅げるところの種類があって、僕は僕なりに嗅げる分野みたいなものがある。菅野さんは菅野さんで、CPU丸動きしてるときがある。(笑)
船越 なるほど。(笑)
大友 でもそれとは別に、江戸意匠で錫光さんに松竹梅をおまかせしてしまうくらいの軽さっていうのも、菅野さんの中にあるクリエイティビティのような気もするんです。ある種のおもしろ味というか。それと同時に、デザインをつくり込んでいく楽しさみたいなものも感じてらっしゃる気もする。
菅野 どっちが楽しいかなぁ。
船越 私、過去に数年間、菅野さんとお仕事でご一緒させていただいたので、菅野さんがどのくらいの正確さを求めるか、ある程度理解しているつもりなんです。なので、松竹梅でスケッチしか書かれなかったって聞いて、すごく驚きました。いつもミリ単位で詰めていかれるじゃないですか。それとはかなり対照的な話ですよね。
菅野 ミリ単位でクレームつけるしね。(笑)
船越 すごく意外です。
菅野 基本的には僕、大雑把な人間なのよ。
大友 ・・・?
船越 あの、学さんが含み笑いされてますが。(笑)
大友 いや、菅野さんは大雑把ではないです!
船越 はい。私もそう思います。(笑)
大友 あのときはたまたま、今しか味わえないおもしろ味みたいなところがあったんですよ。錫光さんとだったら、ここから先をおまかせしてしまうのも一興みたいな楽しみ方をされたんだろうなと、僕はそう理解してます。
菅野 でも、学ちゃんもそうでしょ? ミリ単位でつめるじゃない。
大友 わりと僕、ねちねちしてますね。(笑)
菅野 だよねぇ。(笑)
   
  長年の経験値なのでしょうか。ピッピッピのピですよ。続いて、学さんの嗅覚のお話から、学生が必ず口にする「大友さんはこわい説」について。
第1話 就職する気にならなかった。
第2話 デザイナーの追っかけ時代。
第3話 行為を料理する時代の先駆者。
第4話 伝統工芸の手法でつくる工業製品の代表的なモノ。
第5話 表向きは金。裏を返すと、デザイン大好き。
第6話 クリエイトもするし、エディットもする。
第7話 どんなデザイナーよりも、菅野さんのことを知ってる。
第8話 プロダクトにグラフィックを取り入れた走り。
第9話 デザインにできること。
第10話 最近のお仕事。