菅野 |
江戸意匠の中で、一番大友学らしいと思う作品はどれ? |
大友 |
うーん。銀のクリップですかね。 |
菅野 |
あぁ、確かにね。銀のクリップは良いよね。個人的には、日本手ぬぐいもいいんだよなぁ。ヨーロッパの伝統柄と、日本の伝統の手ぬぐいっていうのを組み合わせて、うまいことやったよね。 |
大友 |
おもしろかったですね。 |
菅野 |
セルフプロダクトっていうのは、自分の考え方がストレートに出るから、デザイナーの個性が出るんだよね。 |
船越 |
銀のクリップは、どういうキッカケで生まれたんですか? |
大友 |
思いつきに近いですかね。テーマをどういう風に解釈するかっていうところが自由だったので。 |
菅野 |
ということは、コンセプトは後付なの? クリップって非常に完成された形だけども、簡単に捨てられてしまうから、それを存在感のあるものにしたいって言ってたじゃない? |
大友 |
はい。 |
菅野 |
それは後付けなの?(笑) |
大友 |
いや、その通りです。 |
船越 |
思いつきというのは? |
大友 |
「床の間から日常へ」というテーマに対して、床の間が象徴するものと、日常が象徴するもについて、自分の中であれこれ色々考えるわけですよ。 |
菅野 |
うん。 |
大友 |
一番大きなギャップを考えるわけですよ。一番向こうにあるものと、一番こちらにあるものが、強引に化学反応を起こすと、どんな現象が生じるのかっていう実験をしてみたかったんです。 |
菅野 |
なるほど。 |
大友 |
なので、割と感覚的なところでマッチングさせてしまったというか。伝統工芸の手法でつくる工業製品の代表的なモノって、どんなモノができあがるのか見てみたかった。たぶん見た目は全然変わらないんですけど、これが純銀だって言ったときに、「どうしよう!」ってことになると思って。 |
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船越 |
なりました。 |
大友 |
それが何の用に供するかっていうと、答えに詰まるところはあるんですけど、そういうハイブリットをつくってみたかったっていうね。 |
菅野 |
なるほどね。 |
大友 |
あの日本手ぬぐいもそうですよね。日本の伝統的な注染という手法や製法と、西洋のシェパードチェックやグレンチェックっていう柄を、日本の藍色で染めることによって、どういうことになっちゃうんだろう? っていうのが見てみたかったんですよね。 |
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菅野 |
化学反応ね。それはおもしろいチャレンジだったよね。あの銀のクリップを見たとき、一瞬「んっ?」と思ったんだよね。 |
大友 |
はい。 |
菅野 |
コンセプトは「床の間から日常へ」だったんだけど、こいつ「日常から床の間へ」っていう切り方にしたなって。(笑) |
船越 |
たしかに。(笑) |
菅野 |
そういうね、切り方がデザイナーによって全然違うおもしろさがありましたよね。 |
船越 |
あのクリップ、おいくらでしたっけ? |
大友 |
1個1,890円でしたね。 |
菅野 |
あはは。高い。(笑) でもあれ、売れたんだよね。 |
大友 |
売れました。第2位だったかな。 |
菅野 |
ま、1位は「松竹梅」だけどね。(笑) |
船越 |
そうなんですか? |
菅野 |
そうですよ。 |
大友 |
それ、売上高でしょう?(笑) |
菅野 |
そうそう。(笑) 数と売上高は違うからね。 |
大友 |
そうですよね。(笑) |
菅野 |
売れるかどうかっていうことも大切だからね。 |
大友 |
そうですね。 |
菅野 |
やっぱりお客さんを買うっていう行為までもっていけるかどうかだよね。作家が展示会に壷を出して、お客さんが「いいわね、これ。」って言いながら帰って行くっていうこととは違って、江戸意匠は展示即売会だから。 |
大友 |
そうですね。 |
菅野 |
いいなって思うことと買うっていう行為の間には大きな溝があるんだよ。いいと思っても、値段を見たら「これは高いわ。」と思うかどうか。それによって、買うか買わないかって決まるじゃない。たぶん値段じゃないんだよな。そこが醍醐味でおもしろい。 |
船越 |
なるほど。 |
菅野 |
ただね、やっぱりお店に立ってセールスしていたデザイナーの作品は売れてたね。 |
大友 |
そうですね。 |
菅野 |
もちろん、みんなのプロダクトをセールスするんだけど、お客さんに商品のことを直接に説明すると、その溝の幅が縮まってきて、「買うわ」ってなるんだよ。江戸意匠はそこがおもしろかったね。それまで自分で売り場に立つってことなかったからね。 |
船越 |
普通はお店に並んだら、そこから先はデザイナーの手を離れて、お店の人の手に渡ってしまいますよね。 |
菅野 |
そうそう。 |
大友 |
あのころから考えると、考え方とか、おもしろみを感じる精度っていうんですかね、そういうものが若干細かくなってきましたし、今考えるとすごく粗いなぁっていうかんじはしますね。
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菅野 |
それは確かにそうかもしれないね。セルフプロダクトって、企画から製造まで自分でコントロールして、最後はお店に立って売るわけじゃない? そうすると、中にはズブの素人の範疇がいっぱい入ってるんだよね。売ることなんて僕、ド素人だから。そういうところで、粗くなってる部分はあったな。
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大友 |
今だったら、もうちょっとうまくやれるなぁとか、今だったらもうちょっと気楽にやれるなとかね、やっぱりその頃とは色々変わってるなぁっていうかんじですね。
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菅野 |
いちばん変わったところはなんだろうね?
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大友 |
なんですかね?
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菅野 |
あの頃、お金なかったからなぁ、みんな。(笑)
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大友 |
けっきょく、みんな20万、30万つぎ込んでるから、売れないと真っ赤なんですよね。そりゃ必死ですよね。(笑)
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菅野 |
そうそう。会場設営経費から出張経費から、全部個人だもんね。
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大友 |
そうでしたね。儲かっても飲み代で消えちゃうし。(笑)
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菅野 |
あはは。(笑)
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江戸意匠は今でもオファーがあるんだとか。次回は、学さんから見た菅野さんのお話。さすが長年のお付き合い。ズバズバいきます。
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