第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。

萩原さんのお仕事について教えていただけますか。
萩原 それが一番難しいですね。
ちなみに肩書きはどうされているんですか?
萩原 ないんです。名刺に肩書きは入れてません。
菅野 つくし文具店店主じゃないの?
萩原 いやいや。基本的には肩書きをなくしたい。かっこよく言うと、萩原修っていう肩書きでいたいので、あえて名刺には書いていないんですよ。言われればデザインディレクターっていうのが一番多いかな。
デザインディレクターというのは、どんなお仕事ですか?
萩原 デザインのことを知らない人には、「デザインしているんですね。」って言われるんですけど、僕は一切デザインしないと決めています。そこで僕がいうところのデザインっていうのは、最終的な色とかカタチとか世界観を作っていくこと。僕の仕事は、その周辺の状況を整えることですね。一般的に言うと企画とかプロデュースという仕事です。
菅野 デザイナーとは役割が違うんですよね。
萩原 あと、ジャンルもあまり狭くしたくない。なんでもありにしたいですね。今は、建築、インテリア、プロダクト、クラフト、グラフィックくらいの幅の中で、最適なアウトプットを目指して、デザイナーと一緒に動いてます。ゆくゆくは、アパレルとか食とか、もっと全体にしたいんだけど。
菅野 修さんの企画には、必ず萩原修の匂いがあるんですよ。デザインは各デザイナーがやるんだけども、一貫して修さんの匂いがある。この匂いとか空気感をつくるっていうところの意味合いってやっぱりすごいし、これはやっぱりなかなかできないですよ。
萩原 いや、そういうの、なるべくつくらないようにしてるんですよ。
菅野 そうですか。
萩原 うん。オゾンを辞めてから、プロジェクトファームっていう方法をやりたいなって思ってるんです。それはね、誰かから頼まれるんじゃなくて、やりたい人が集まってきて、プロジェクトをつくって、それをビジネス的にじゃなくて、育てていく感じ。5年とか10年とか、わりと時間をかけて。まぁ、芽が出ないのもあるんですけど。(笑) たまに水やりしたりとか、ちょっといじめたりして、成長させていくっていう。そういう、やりたい人が集まってつくったプロジェクトを、育てていくような、そういう仕事のスタイルを模索してるかんじ。その1つがつくし文具店であり、コドモノコトであり、かみの工作所であり、中央線デザインクラブであり、っていうかんじなんですよ。
菅野 僕が思うに、修さんが他の方と違うのは、ビジネスにしないところなんですよ。これは良くも悪くもね。修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。だからこそ集まってくる人間もビジネスを感じずにやっていて、そこにほんわかとした空気が漂ってる。それがやっぱり僕にはできないとこなんだなぁ。
萩原 これは最近思っていることなんですけど、根本的にデザインとビジネスはかなり矛盾しているんですよ。まぁ、矛盾しながら両方をうまくまわしていくことは必要なのかもしれないですけど、ビジネスの為のデザインっていうのは、やっぱりあり得ないなと。最近特に思います。
菅野 お、きましたね。
萩原 よくビジネスのためにデザインが必要だとか言う人がいるんだけど、それは違うんじゃないかなぁと。僕は、デザインはむしろ教育とか宗教とか、そういうものと近いと思うんです。教育にビジネスを持ち込もうとしている人もいますけど、それはもう大きな間違いです。絶対お金には換算できないことなんで。
菅野 デザインとアートの関係っていうのは、どういうふうに考えてますか?
萩原 この間、デザイナーの倉片雅行さんがいいこと言ってましたね。
菅野 聞いたの?
萩原 うん。デザイン教育委員会でインタビューしたときに、「デザインは人を悲しませちゃいけない。アートは悲しませてもいい」と。
菅野 ほぅ。
萩原 アートは非日常的なことも含めて、精神的なものに働きかけるものだから、悲しい映画とか、悲しい音楽とかはアートになり得る。デザインっていうのは、日常的な生活を支えるのに必要なので、悲しませるデザインはよくないって。
菅野 確かに悲しむデザインってあんまりないね。うん、いいこと言うね。
萩原 うん。すごいと思う。
菅野 教育者だね。
萩原 あともうひとつ印象的だったのが、彼が会社を辞めて1年くらい海外を見て回ったときの話なんだけどね、向こうの人が色々よくしてくれることに対して、自分はお返しができなくて、それがすごく重荷になった時期があったらしのね。でもそれを伝えたら、「いいんだよ。他の人に返してくれりゃ。」ってさらっと言われたらしいの。
菅野 ほぉ。
萩原 そういう考え方、北欧なのかなぁ。みんながそう思っているらしいのよ。つまりそれはギブアンドテイクじゃないんですよ。ビジネスがギブアンドテイクだとすると、無償の行為? その人のために何かをやることがデザインっていうことでいいんじゃないかなぁと。見返りなんかなくてもね。
菅野 うーん。
萩原 宗教も同じで、あれはお金じゃないんですよね。何かを当然のようにやってあげる。するとやってもらった人はそのお礼としてお金を払う。デザインも同じで、困っている人がいるわけだから、企業でも何でも無償で助けてあげて、結果その人がその対価としてなにかを払えばいいんじゃないかなと。それはお金じゃなくてもいいし、払わなくてもいいんじゃないかってくらい。その代わり他の人に何かをやってあげるかんじ。そうすると仕事にならないんだけどね。(笑)
菅野 そのへんはやっぱり、考え方が全く違うんだな。(笑)
萩原 デザインはギブアンドテイクではないですよ。だからデザインそのものをビジネスにすると、間違っちゃう気がするんですよね。
菅野 僕は、デザインってビジネスだと思っちゃうんですよね。やっぱりデザインっていうのは、あるカタマリ=企業から依頼を受けて、その企業が潤うための職業であると思うんです。例えば個人としての菅野傑という人間が、何かをデザインしたとき、これは誰にも迷惑掛けないわけだけども、果たしてこれはデザインって言えるのかなって思ってしまう。これってインダストリアルデザイナーとプロダクトデザイナーの区分けって話にもなっていくんだけど。
第1話 夢追い人とロマンチスト。
第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。
第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。
第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。
第5話 広い意味では営業です。
第6話 2010年だい問題。
第7話 パリにデザインはない。
第8話 自分の中心が世界だと思ってる。
第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。
第10話 優秀な若者は田舎に帰ればいい。