第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。

菅野 修さんはプロダクトデザインとインダストリアルデザインの区分けっていうのは、どう考えてますか?
萩原 うーんと、あんまり考えてないですね。というか、いかに区分けをなくせるかって考えてます。たぶんそれは色んなバランスの中で、ぴたっと分かれるようなものじゃなくて、かなりグレーゾーンがあると思いますけどね。
菅野 なるほど。
萩原 つまりそれって、ビジネスをどう置き換えるかということだと思うんですけど、僕は「営利目的」っていう言い方に置き換えるのがいいかなって思っているんです。企業体って、もちろん企業によって意識の違いがありますけど、最終的には営利事業だと考えると、デザインはビジネスとは合わないなと思います。デザインでは営利目的が最初に来ちゃいけない。
菅野 うん。
萩原 お金をまわすことに関しては全然いいと思ってますよ。そうじゃないと続いていかないことなので。宗教だってお金が介在しないわけじゃないし。ただ、目的が何なのかっていうと、デザインは営利目的じゃないなと。
菅野 なるほどね。
萩原 デザインとプロデュースは、そういう相反することが一緒になっているので、苦労もするし、まぁ、それが両方あるからこそうまくいってるっていう意味では、デザインとビジネスはもっと上手くいくべきだなと思ってます。
菅野 難しいね。この辺ね。
萩原 えー!? 難しい?
菅野 難しい!
萩原 難しいのかな。今、吹っ切れてるから、そんなに難しく考えてないなぁ。
菅野 じゃあデザインって誰のためにあるのかっていうことですよね。もちろん、ある意味ではエンドユーザーの為にあると思うんだけども、そこにひとつの企業が介在したときに、僕らデザイナーは、企業のカラーっていうものをつくっていかなきゃいけないんですよね。何よりもまずこの目の前に立ち塞がる企業を説得しなきゃいけない。ここを打破しない限り、世の中に出て行けないわけですよ。
萩原 なるほどね。
菅野 そのときに、自分カラー100%のデザインをぶつけて、企業は納得するかというと、そこはやっぱり営利目的だから難しい。それがどんなにいいものだとしても、例えば成形条件が難しいせいでコストが高くなって売れないとかね。常にそこの葛藤の中で戦っているかんじです。100点のデザインが60点になったとしても、企業が満足するデザインってものを提供しないといけない。デザイナーにはそういう使命があるって思っているんですよね。
萩原 そうですね。そういう場面においては、企業とデザイナーの関係をどうしていくかっていう中で、具体的にそういうことも必要ですよね。ただそれは手段に過ぎないですよ。つまり、究極的なデザインの目的っていうのは、企業のカラーをつくることではないと思ってるんですけどね。
菅野 企業からデザインを受けないで、自分がセルフプロダクトでやっていくという考え方に立てば、その辺は非常にすっきりするんだよね。
萩原 やり方としてはそういうやり方もあるけども、別にそのやり方だけで成立しないものもあるので、それは別にいろいろあった方がいい気がするな。逆に、デザインはこういうやり方じゃないといけないって決めすぎるのは、ちょっと狭めちゃうかなと。
菅野 そうですね。
萩原 それぞれが、それぞれにやりやすい方向を採っていけばいいですよね。企業から依頼されて、いいものができて売れる。企業も良くて、使う人も買う人もいいっていう状況がつくれるならそれでいい。そうじゃないものに対しては違うやり方を補足しなきゃいけないっていうだけのこと。あんまりこう、そこで決めちゃうと行き詰っちゃうっていうか、デザインはこういうやり方で、こうしなきゃいけないみたいな原理主義的なのはちょっと、嫌だなっていうかんじですね。
菅野 なるほどね。
企業時代とフリーになられてからでは、お仕事で何か違うところはありますか?
萩原 基本的に、自分の軸っていう意味では同じつもりなんですけど、やっぱり置かれている状況によって考えなきゃいけない要素が変わってきますね。僕は以前、大日本印刷っていう会社にいて、その後オゾンっていうところに移りましたけど、当時はやっぱり会社の利益っていうのも考えなければいけない。社員である以上対価をもらっていますからね。だから自分がやりたいことと、会社がやるべきことと、社会が必要としていること、この3つをバランスよく保たなきゃいけないので、それがけっこう辛かったですね。
菅野 僕も会社勤めしてたので、よくわかります。
萩原 今は、会社のためにっていう立場はないので、その条件がひとつ外れた分、すごいやりやすい。
菅野 なるほどね。
萩原 でも、プロジェクトごとに、やっぱりそれなりに大変なことはあるんですよ。
菅野 うん。
萩原 僕は、ひとつのプロジェクトに、色んな人が集まっている状況をつくりたい。それも、みんながやりたい! と思ってて、みんなが自分の利益になるっていう状況をつくりたいんですよ。それさえできれば、あとは成功間違いなしというか、そこに失敗はないんですよね。売り上げとかそういう話じゃなくなっちゃうので。
菅野 そうですね。
萩原 僕が気にしてるのは、プロジェクトに参加した人が、そういう気持ちになるかどうか、それだけなんですよ。その状況がつくれたら、あとはもうだってみんな勝手にそれぞれやるもん。デザイナーなんてそもそもデザインしたいんだから。そういう状況を、いかにつくるかが僕の仕事だと思っています。
菅野 利益っていうのは対価だけじゃないからね。色んな考え方を持って参加するってことがすごい大切だと思うのね。自分の為になるっていうのは、お金だけじゃなくていっぱいあるから。修さんは、そういう場を提供してくれてる。例えば、デザインを志してる若い人たちが、修さんの企画をきっかけに脚光をあびるってことは過去にいっぱいあったからね。そういう意味で、今の日本のデザインの人たちを、修さんが育てているっていうことは間違いないんじゃないかな、とね。
萩原 いやでもあの、育てているっていう意識、ないんですけどね。
菅野 俺も育ててほしかったなぁ。(笑)
萩原 いやいや。(笑)
菅野 それを意識してないからいいんじゃないですか。
萩原 自分がやったっていう風には考えたくないんですよね。そこに関わった全ての人がやったことなので。よくプロデューサーとかディレクターで、自分がやったって言う人がいるんですけど、僕はあまりそれを言いたくないんです。僕は僕の役割を担っているっていうだけなので。デザイナーだけじゃ成立しないですからね。
菅野 だけど、参加する方の中には、違う考え方の方もいるわけじゃないですか。
萩原 そう。そういう人がいるとダメになっちゃうんですよ。失敗しちゃうんです。そこは難しいところですね。
菅野 選ぶってこともやっぱり大変なことですよね。
萩原 そうですね。
菅野 そこにはやっぱり、飲んだり食べたりしながら話をして、「あぁこの人だったら」って思える人でないとなかなか難しい! デザインが良い悪いの前に、そこがあるよね。
萩原 ありますね。ただ、色んな人を見てきて、デザイナーという人種は能力が高いと思っているので、うまくいかないというのは、それが活かされてないだけだと思うんですよね。そのデザイナーの能力を最大限に活かせれば、どんな人でもうまくいきます。その能力をちゃんと出せない状況の方が問題だと思ってます。
菅野 なるほどね。
萩原 特に日本のデザイナーは優秀な人いっぱいいるし、日本人にしかできない感覚ってやっぱりあるので、それがもっと活かせるような状況になってくれば、もうほんとに、もっとガンガンですよ。(笑)
菅野 いやぁ嬉しいなぁ。(笑)
第1話 夢追い人とロマンチスト。
第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。
第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。
第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。
第5話 広い意味では営業です。
第6話 2010年だい問題。
第7話 パリにデザインはない。
第8話 自分の中心が世界だと思ってる。
第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。
第10話 優秀な若者は田舎に帰ればいい。