第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。

萩原さんが伝えていきたい、日本デザインの力というのは、どんなものですか?
萩原 僕は、「和」っていうのを、調和の精神っていう言い方をしているんですけど、それがモノづくりの良さに反映されてるんじゃないかなと思ってるんです。自分の主張を通して何かをするってことじゃなくて、お互いの立場だとか、持っているものを尊重して、モノをつくっていく。その結果、日本のモノづくりっていうのはすごく結果が出ている。それこそがいわゆる調和の精神で、この展覧界を通じて伝えたい本当のこと。
菅野 うん。
萩原 日本には、異質なものを組み合わせる調和の精神がありますよね。ハイテクとローテクとか、中央と地方とか、そういう異質なものが繋がって組み合わせられる。それは、松岡正剛さんの言葉だと「てりむくり」になるのかな。神社仏閣の、「てり」と「むくり」という、ふたつの相反する要素をどう繋ぎ合わせるかっていうことに、非常に長けている民族というかんじがしますね。
菅野 そうですね。
萩原 それがここにきて不況もあるし、もう一回見直そうっていう動きもある中で、あるいはインターネットで世界を繋げるっていう動きがある中で、今までは出会わなかったものが出会うことになった。その結果、2000年になんか出ててきたんじゃないかという仮説なんですけどね。
菅野 なるほど。
萩原 ほんとはモノだけじゃなくて、その仕組みとかも見せられればよかったんですけど、なかなかそういう事例がうまく集まらなくて。
菅野 それは最終的にはどんな流れで行くの?
萩原 一応、世界何ヵ所か巡回して、3年目位に日本に戻って来れたらいいねって。
菅野 1回きり?
萩原 そうですね。とりあえずは。

日本デザインの可能性はありますか?
萩原 すごいありますよ。だから日本が世界に出て行く必要は何もなくて、世界から来る傾向がますます加速するんじゃないかなと思いますね。日本デザインを求めて。
菅野 うんうん。
萩原 なんで日本ってこうなってるんだろうって。要するに謎ですよね。そんなことたぶんわからないんだけど、色んなモノが生まれてきて、すごいデザイナーがいて、それは一体なんなのっていうかんじ。
菅野 海外の目が日本に注目してますよね。
萩原 やっぱり、新しいモノを生み出していくっていうのは、ゼロから生み出すっていうよりも、これまで出会わなかったものを出会わせて、形にしていくっていうことがひとつの方法ですよね。
菅野 そうですね。
萩原 デザインっていうのは、何かを付加して飾っていくことだとか、日本デザインはそぎ落としていくことだって言われるけど、そうじゃなくて、色んな状況とか、色んな要素とか、色んなことを組み立てることがデザインなので。
菅野 なるほどね。
萩原 いいデザインって、日本でも海外でもそうやってつくられてきていると思うんですよね。だから日本はほんとに、2010年〜2020年〜2030年くらい、たぶん世界のトップをひた走るんじゃないかなって。
菅野 ほぉー。
萩原 希望的観測! みたいなかんじですけどね。
菅野 いや、いいですね。
萩原 もうひとつ、別の視点でいうと、日本は家具がウィークポイントだと言われてきたんですよ。
菅野 そうですね。
萩原 でもそれって当然で、テーブルとか椅子の生活って、日本オリジナルではないので、まだ消化しきってないんですよ。もともと持ってる日本の様式を全然継承できていないので、生活文化っていうところでは、まだ消化不足なんですよね。
菅野 うんうん。
萩原 それはまぁ、これから山田さんとかが、きっといろいろ提案して、解決していくに違いないんですけど。
菅野 そうですね。(笑)
萩原 あとたぶん窓周りみたいなのも大きなポイントで、これもやっぱり日本の文化ではないですよね。じゃあ日本の窓ってなんなの? っていうことを考えていかないと。
菅野 うんうん。
萩原 窓っていう字は、2通りあるじゃないですか。「窓」と「間戸」。そのふたつの違いをどう考えて、これからどうしていくのかっていうのは、非常に重要なポイントなのですよね。
山田 完全に分かれてますよね。洋と和がパキッと分かれちゃってる。すごい両極端なところを、みんなずっとやってて、その間っていうのはあんまりない。家具は実はやってるんですけどね。
萩原 そうですね。色々やってるけど、まだまだ。未だに明治以降の和洋っていうのが続いているかんじ。まぁいいところまでいってるとは思うんですけど。
山田 日本で和的なものを与えようとすると、柄とかになってくるんですよ。和風の柄とか、質感が和風とか。でもそれは違って、さっき萩原さんが言ったみたいに、一回要素を分解して、日本の考え方で組み立てていくと、たぶん違うものが出てくると僕は思うんです。
菅野 日本のインダストリアルデザインは、全部がパーツとして切れっちゃってるんですよね。その辺をもう少しなんかこう繋げられたらいいなとおもうんだけど。色んなパーツを作ってる会社が、もう少しちゃんと手を組んで、モノをつくる姿勢が必要だなと。
萩原 それは大変そうですね。(苦笑) トータルでっていうのは難しいよね。
山田 家具はわりとやってますよ。やっぱり住宅メーカーと組んで、住宅に対してどういう提案ができるかっていうことを根本からやらないと、家具が成り立たないからなんですけど。例えばマンションと組んで、その空間に合った家具を最初から提案していくっていう体制は、今かなり多いと思います。
菅野 でも現状は、ハウスメーカーが一番強くて、パーツ類のデザインは言いなりっていうね。そういう状態でコラボレーションしても、あんまりおもしろくないから。その辺の仕組みも必要ですよね。
つまり、取りまとめるキーマンが必要ということでしょうか?
菅野 うん。デザインっていうものをもっと幅広く考える人、まずアクションを起こす人っていうのが、もっともっと増えていかないと、たぶん調和のとれたものにはなっていかないんだろうなって思うんだよね。
萩原 ジャンルだけじゃなくて、企業でもね、とにかくそれぞれのことしか考えていないので、それを横にこう。
菅野 串刺しにする人間が必要。
萩原 仕組みとかデザインとか色んなことを繋げていくようなことをやっていかないとね。それは調和の精神にも繋がるんですけど、今まで別々だったことを一緒に考えてみるっていうことが必要かなっていう気がしますけどね。
菅野 これはなかなか一筋縄ではいかないですよね。
萩原 そうですね。
山田 たぶん1人だけでもダメなんですよね。デザイナーがやる気になってやったり、メーカーもそうだし、プロデューサー、ディレクター、みんなそういう風に言っていけば、調和の取れたものができるけど、1社が「お金出します」ってなっちゃうと、そこが強くなっちゃうから。
菅野 だめですよね。
萩原 まぁでも最終的には、そこに住む人が、あるいはそこを使う人がやるしかないんですけどね。
菅野 そうですね。
第1話 夢追い人とロマンチスト。
第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。
第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。
第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。
第5話 広い意味では営業です。
第6話 2010年だい問題。
第7話 パリにデザインはない。
第8話 自分の中心が世界だと思ってる。
第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。
第10話 優秀な若者は田舎に帰ればいい。