第6話 2010年だい問題

萩原 2008年10月に、パリ日本文化会館という国際交流基金の団体が、展覧会をやったんですけど、僕はそこに参加した4人のキュレーターの1人。1年半くらいかけて日本のプロダクト、特に新しいモノを中心に161点選んだんですね。で、展覧会をするために、4人で10日間くらいかけて、モノを並べる作業をやってきたんです。間違えないようにね。でね、僕は基本的に、あんまり海外行きたくないんですよ。
菅野 あ、そうなの?
萩原 「身近なもの」と「小さいもの」がキーワードなので、日本国内でもなるべく遠くへ行きたくないんです。できるだけ身近で済ませたい。だから、どうやったらパリに行かないですむかなぁって色々考えたんですけど、やっぱりどうしても行ってくれということになってしまって。
菅野 渋々ですか。(笑)
萩原 そうそう。(笑) エッフェル塔の近くで、会場から2〜3分のところなんですけど、10日間ホテルに1人で暮らすわけですよ。毎日そこからサラリーマンみたいに通って。(笑)
菅野 うんうん。
萩原 夜は他のキュレーターも一緒にみんなで呑みに行って、ホテルに帰ってみたいな生活なんだけど、呑むって言っても限界があるし、次の朝は10時とかなので、時間があるんですよ。1人だし、テレビ見てもフランス語わかんないし。だから、1人で展覧会のカタログを毎日こう、眺めていたらね、「あ、そうなのかぁ」っていうのが色々見えてきて。それが2010年代問題、大問題になったんですね。
菅野 なるほど。
萩原 もともとこの展覧会は、日本とフランスの交流150年だったかな、なんかそういう時期に当たっていて、パリの中では、日本の文化を紹介するような企画が色々あったんです。そのひとつに、パリにあるケ・ブランリ美術館の展示があって。
菅野 はい。
萩原 ケ・ブランリ美術館は、建築家のジャン・ヌーヴェルが設計した、巨大な民族学博物館みたいな施設なんですけど、そこの1階の企画展示で、もともとパリのポンピドゥーセンターにいたキュレーターの方が、日本の民芸の展示を企画していたんです。僕は事前にその企画のことを知っていたので、僕らの展覧会を、彼の企画と繋げるようなものにしたい思ってたんです。つまり、日本の民芸と現代のプロダクトが、どう繋がってるのかってことを感じられるようなものにしたいなぁと。国際交流基金の方からも、同じ要望があって、まぁ、それで僕が呼ばれたようなところもあるんですけど。
菅野 うんうん。
萩原 要は、プロダクトを選ぶと言っても、工業製品を呼ばれる、いわゆる車だとか家電製品だけじゃなくて、もうちょっとプロダクトとかクラフト寄りのものを選んで欲しいということだったと思うんですけど。ちなみに、他のメンバーは、デザイン評論家の柏木さん、川崎市民ミュージアムの深川さん、デザインジャーナリストの川上さん。
菅野 うん。
萩原 柏木さんは、歴史のことは幅広く詳しいけど、現代のこととかはそんなに得意じゃないし、深川さんは、どちらかというと工業デザインの方が得意。川上さんは、どちらかというとアートっぽいというか。なので、僕がクラフト的な要素を担うような形になりまして。
菅野 なるほどね。
萩原 みんなで議論しながら選んだものを、改めて見てみたら、明らかに2000年以降のモノがすごく多い。
菅野 へぇ。
萩原 新しいモノって言われただけで、2000年以降なんて明確には言ってなかったんですけど、ほとんどが2000年以降だったんです。それを見て、日本って2000年以降にこんなにモノが生まれてきたんだって改めて思ったんです。
菅野 なるほどなるほど。
萩原 そうやって考えていくと、民芸が始まったのが、だいたい1920年代。そこから1950年代までが民芸運動が盛んだった時期。1950年代は、戦後の日本に学校ができてきた頃。武蔵野美術大学とか、多摩美術大学あたりですね。デザイン系のメディアとか雑誌もそのころいっぱい出たりとかね。あとデザイン系の団体ができたのもこの時代。そういう意味では、デザインの基本が1950年代にできてきた。まぁインダストリアルデザインに近い形ですけどね。
菅野 高度経済成長ですね。
萩原 その30年後の1980年代に、バブルと呼ばれる現象があって、そこでもかなりデザイン的なものが出てきた。そうやって30年ごとに出てくるって考えたら、次は2010年なんですよ。
菅野 おぉー。
萩原 2010年代から新しい動きが始まるんだと思って。バブルのときは、お金優先だったのが、80年代にバブルがはじけて、その流れで90年代はもう一回足元とか生活を見直すような気分があった。その後はネットが発達して、流通の問題とかが変わってきて、意識も変わって、たぶんここから生み出されているものって、仕組みがちょっと違うんですよ。
菅野 うんうん。
萩原 2000年になって、ようやく仕組みが変わってきて、今までの旧態然としたモノのつくり方じゃない方法が出てきてるから、それがたぶん2010年になると、何かが大きく変わっていくんじゃないかなって。ダメなところとか、今までの方法論に固執してるところは潰れていくだろうし、新しいところがどんどん出てきて、30年後には、今3〜4人でやってる小さい会社が一気に大きくなるんじゃないかなぁっていうかんじがしてるんですよね。
菅野 なるほどなぁ。
萩原 そのときにデザイナーとかデザインっていうのが、どうなってるのかっていうのは僕にもわからないんですけど、明らかに今変わりつつあるっていう実感を持てたんですよ。それが2010年だい問題。2010年代はすごいぞっていうかんじ。楽しみ。
菅野 いや、楽しみだなぁ。
第1話 夢追い人とロマンチスト。
第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。
第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。
第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。
第5話 広い意味では営業です。
第6話 2010年だい問題。
第7話 パリにデザインはない。
第8話 自分の中心が世界だと思ってる。
第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。
第10話 優秀な若者は田舎に帰ればいい。