萩原 |
もうひとつ、パリに行ってわかったのは、パリにデザインはないんですよ。 |
菅野 |
というと? |
萩原 |
日本で言うところのデザインは、ほとんどない。 |
菅野 |
うん。 |
萩原 |
パリには芸術はすごくあるし、ファッションもすごくある、古いものもすごく残ってる。日本で言う「デザイン」に近いのは「デコレーション」かな。飾ること。空間とかは飾ってるんだけど、間の取り方とか、空間のつくり方っていうのは、あまり考えてない。眼中にないっていうかんじ。 |
菅野 |
あぁ、なるほど。 |
萩原 |
だからパリで最先端のモダンなインテリアショップとかって、片山正道さんが設計してたりするんだけど、片山さんがやってる店なんて、東京にはいっぱいあるじゃないですか。 |
菅野 |
ありますね。 |
萩原 |
だから、パリにはインテリアはないですね、ほんとに。ついでに言うと、オゾンに務めた最初の頃、インテリアとデザインって同じことかなと思ってたら、全く違って、ショックを受けたことがあって。インテリアの人ってデザインに興味がないというか、勘違いしてる人がほとんどなんですよね。デコレーションとデザインを勘違いしてたり、スタイリングとデザインを勘違いしてたり。本質的なところで、デザイナーが思ってるデザインというのを、ちゃんとわかってるインテリア業界の人が極端に少なくて、すごく苦労しましたね。 |
菅野 |
わかります。 |
萩原 |
言葉が通じないっていうか、同じこと話してても視点が違うので、けっこう辛かったですね。そこ、すごく辛くないですか? |
菅野 |
まぁだけど、フランスって、まず100年以上壊されない、壊しちゃいけない建物がずらーっとあって、照明の色まで決められてて、ある意味現代の人たちがデザインする余地が無いっていじゃないですか。要するに日本全国風致地区みたいな国なんですよね。日本は逆で、ものすごい多岐に渡っていいデザインがあって、海外からもどんどん来る。けれども、全体を俯瞰で見ると、じゃ綺麗なの? って。僕は東京の街並みって綺麗じゃないよなって思う。じゃあ、デザインっていったいなんなんだろうっていうところを、10年位前かな、フランス行ったときすごい感じたなぁ。 |
萩原 |
たぶん同じですよね。基本的な感じ方としてはそんなに変わんないかんじがするなぁ。 |
菅野 |
うん。 |
萩原 |
パリに魅力があるのは、古いものがあって、馴染んでいて、整っていてっていうところとか、芸術に対しての意識は高いところ。統計取ると、日本の禅とかお茶とか、そういう文化を理解する国民って、フランスが圧倒的に高いんですって。 |
菅野 |
そうですか。 |
萩原 |
芸術とか文化に対する意識はすごく高いので、そういう意味ですごくいい都市なのかなっていう気がしていて、じゃあ日本はどうなの? って言うと、そこはすごくおぼつかない。特に戦後は、それこそ営利目的の経済優先、産業優先できちゃった。日本から見るところの中国とか韓国って、そういう風に見えてた時期があったと思うんですけど、やっぱりなんか無茶苦茶なかんじですよね。 |
菅野 |
なるほどね。 |
萩原 |
パリの人は、ビジネスと文化の両方がわからないと、一人前じゃないっていう風に言われているんだけども、日本の場合はビジネスの用語だけで生きてこれちゃったからね。これからはたぶん、そうはいかないと思うんですけど。両方のことができないとね。 |
菅野 |
ポストモダニズムがものすごい流行って、あれ何年くらい前ですかね? |
萩原 |
80年代ですね。 |
菅野 |
80年代。モダニズムからポストモダニズムに移って、2010年はどういう言葉で括るデザインになっていくかね? |
萩原 |
そんな難しいこと聞くんですか!? それはみんなで考えましょうよ!(笑) |
菅野 |
あ、そっか。(笑) |
萩原 |
僕にはわかんないですよ。(笑) |
菅野 |
どうなるんでしょうね? |
萩原 |
ねぇ。 |
菅野 |
またモダニズムみたいな方向に戻っていくのか、変化していくのか。デザインの全体的な流れみたいなものがどうなっていくのか、修さんが答えを持ってないかなって、今日是非聞いてみたいなって思ってたんだけど。(笑) |
萩原 |
うーん。あの、20年代の民芸は、手仕事っていうのを特に大事にしていこうっていう流れですよね。50年代は工業化、80年代はお金というか、産業優先で、ある意味で広告的というか、そっちの方向。それが繋がれば情報化。そういう流れを単純に考えれば、精神性みたいなものが、ひとつのキーワードとして挙げられるんじゃないかなぁ。方向性は示せないんだけどね。 |
菅野 |
なるほど。 |
萩原 |
お茶とか禅とかって、精神性みたいなものまで踏み込んでいける世界なので、フランス人とか海外の人が、日本のプロダクトに注目しているのは、たぶんそういうもの感じるんでしょうね。そういう精神性をここに。 |