第8話 自分の中心が世界だと思ってる。

世界からみた日本のデザインというのは、どういうものですか?
萩原 変です!(笑) そんなところまでつくり込むの!? みたいな。だってフランスなんて大雑把だもん。いや、雰囲気は出てるんですよ、すごく。いいかんじなんだけど、そんなにつくり込まないっていうか、こだわらないっていうか、差別化しないっていうか。あの異常な執着心っていうのは、やっぱり日本人特異なんだろうな。
菅野 日本のデザイン界で言うと、日本のデザイナー達が自信を持ってきているんじゃないかなと思うんだよね。世界で通用するっていう。高度成長期に、「日本のデザインは猿真似だ」とか言われてた時代から、日本のデザインが海外にも評価されてきて、みんな自信がついてきたのかなぁって。その自信が個性となって出てきているんだろうと思うんですよね。
萩原 そうかもしれないですね。
菅野 2010年っていうことは来年? これがまた分散していくのか、ひとつの方向性に集約していくのか。
萩原 たぶん「多様性」っていうのもひとつのキーワードだと思います。ひとつのテイストが主流になるんじゃなくて、多種多様なものが出てくるっていうかんじだと思うんですけどね。ただね、僕は菅野さんが言った「世界で」っていうところに、昔から違和感を持っていて、どこに世界があるのかなっていう。
菅野 おぉ!
萩原 世界はここにしかないですよ。僕は、自分の中心が世界だと思っているので、日本だったら日本できちっとつくって、日本の人が使って、外の人は見に来ればいいんじゃないかなと。使っている状況を含めてモノなので、それでいいと思えば自分のところで活かせばいいんじゃないかなと。
菅野 なるほどね。
萩原 逆に言うと、日本はそれがすごい得意で、海外のモノをなんでも取り入れて、こなして、自分たちに合うようにするじゃないですか。これが日本のすごいところで、ある意味で真似て、なおかつ自分のモノに取り入れちゃうっていうね。他の国にはなかなかないですよ。
菅野 そうですか。
萩原 うん。例えばフランスだと、色々排除してるからなんか変ですよね。フランスのラーメン屋とか、日本食屋さんとか、変ですよね。表層だけを持ってきているだけで、日本の場合の取り入れ方とは全然違う。日本は、もうちょっと本質を取り入れて、なおかつアレンジしてるかんじがするんですよ。だからこれだけね、食にしても取り入れちゃうし、スタイルにしても北欧とかイタリアとかフランスとか、それも現物そのものを取り入れて。(笑)
菅野 現物よりもね。(笑)
萩原 だってねぇ! ルイ・ヴィトンとか、日本の方がよっぽど揃ってるじゃないですか。なんですかね、この変な国。(笑)
菅野 なんだろうね。たぶん料理にしても、日本で食べた方が美味しいんじゃないの?
萩原 もうフランスまずくて辛かったですよ。(笑)
菅野 でしょ?(笑)
萩原 水は美味しかったですけどね。ガス入りの水は。
最近はどんな活動をされてるんですか?
萩原 デザイン&ミュージアムリンクっていう活動に、少しずつ参加し始めてます。日本にデザインミュージアムをつくろうっていう動きの、ひとつのキッカケとして活動しているんですけど、要はデザインの展覧会って言ったときに、何をしてデザインというのかっていう話ですね。
菅野 うんうん。
萩原 例えば、wa展のカタログを見ると、たぶん選ばれた方も見る方も、「日本の中でいいモノ、いいデザインと言われるモノを選んだ」という見方をすると思うんですけど、そうじゃなくて、展覧会として何を、モノを通じて伝えるかっていうことをやろうとしているんですよ。だから変なデザインもあっていいというか。例えば、今これが日本ですごい売れているみたいな、デザイン的には全然よくないんだけど、っていうモノも入っていいっていうことなんですよ。
菅野 なるほどね。
萩原 デザイナーの立場だと、デザインがいいということをどうしても中心に考えてしまうじゃないですか。まぁ僕もそうなんですけどね。だからそんなに変なデザインのものは、入れたくないよって戦っていたりするんですけど。でも、そうではなくて、モノを通して何かを伝えていくっていうのが、この活動でいうところのデザインミュージアムなので、世の中の全てのモノがデザインの対象。デザイン的な見方でモノを見るって言った方がいいのかな。
菅野 うんうん。
萩原 デザインが良い悪いっていう話じゃなくて、どちらかというと人の生活とか文化とかそういう部分を、モノを通して伝えることを目指そうとしているので、企業ミュージアムとか博物館に近い関係かな。今後、そこをどう考えていくのかっていうのが非常に大きな問題というか、そこの考え方って、まだまだ議論の余地があると思うんですよ。
菅野 そうですね。
萩原 なぜそう思ったかっていうと、パリのポンピドゥーセンターのデザインを見たときに、それは近代美術の枠組みの中のデザインなんですよ。日本の美大も同じで、美大の中のデザインなんです。でも本来的に、美術とデザインの成り立ちは違うものじゃないですか。美術の延長線上にデザインがあるわけではないので、なんか変なんですよ。
菅野 あぁ、なるほどね。
萩原 ポンピドゥーセンターでさえ、近代美術館の中のデザイン部門だから、バランスがとれてないんです。エットーレ・ソットサスのコーナーが結構なスペースを持っていること。もちろん偉大なデザイナーなので、それ自体はいいんですけど、他のデザイナーの作品はあまりない。
菅野 うんうん。
萩原 もうひとつは日本の建築。今ちょうど、坂茂さんがポンピドゥーセンターの別館を設計してるので、その関係もあるのかな。椅子でいうと、喜多俊之さんと吉岡徳仁さんの椅子。これがね、変な形で置いてあるんですよ。これ2人とも嫌だろうなと思うんだけど。(笑) そのくらいなんですよ。とにかくバランスがとれてない。
菅野 確かに、偏ってますね。
萩原 ただ、そういう状況を、ポンピドゥーセンターのキュレーターもすごく問題視しててね。こういう展覧界やりたい! っていう気持ちがあっても、ポンピドゥーではできない。要するに美術が圧倒的。
菅野 あぁ。
萩原 日本のミュージアムも美術の世界が圧倒的なので、キューレーターでデザインやる人なんていないんですよ。いたとしても、ほんとにアウトローです。デザインやっても、評価にも何にも全然ならないみたいな世界なんですよ。
菅野 そうなんですか。
萩原 美術、芸術っていう文脈の中で、デザインを語っているだけなんですよね。デザインとして、さっき言ったような社会とか文化を、モノを通じて伝えるって言う文脈は全く無いに等しいくらいなので、そういうのが日本に根付いていくのは非常に難しいし、根付くためにもデザインミュージアムっていうのは日本にあった方がいいと思うので。
菅野 確かにそうだね。
第1話 夢追い人とロマンチスト。
第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。
第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。
第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。
第5話 広い意味では営業です。
第6話 2010年だい問題。
第7話 パリにデザインはない。
第8話 自分の中心が世界だと思ってる。
第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。
第10話 優秀な若者は田舎に帰ればいい。