第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。

萩原さんが取り組まれてきたプロジェクトのお話を伺いたいのですが。
萩原 かみの工作所がいいかな。
菅野 そうですね。
萩原 東京の立川にある20人くらいのごく一般的な印刷会社の社長が、僕のやってるつくし文具店に来て、「こういう会社なんですけど、デザインで何かやりたいんです。」と言って始まったプロジェクトです。
菅野 うんうん。
萩原 基本的に印刷会社って受注生産なので、オリジナルの商品を持ってる会社ってほとんどないんですね。
菅野 そうですよね。
萩原 そこで、まずは現場にグラフィックやプロダクト、建築など色んなジャンルのデザイナーを連れて行きました。
菅野 おもしろそうだなぁ。
萩原 うん。今までの使い方と違う用途開発ができましたね。そうするとメディアにも取り上げられて、それを見た人がまた仕事を依頼するという良い循環が生まれましたね。つくし文具店にも置いてるんですけど、今わりとうまくいってます。
菅野 おもしろいと思うのは、紙を扱うところって、昔はパッケージしか頭の中に浮かんでなくてね、紙で道具をつくるっていう発想は、やっぱりなかったんだよね。
萩原 そうですよね。
菅野 自分で自分の範囲を狭めていたところがあったと思うんですよ。それが今回、かみの工作所を見て、紙を道具にしちゃうっていうことのおもしろさ。素晴らしいなと。
萩原 たぶんデザイナーによっても違うし、色んな状況があるので、一概には言えないですけど、つくる現場、あるいは素材があって、そこからデザインの発想をするのと、必要なものを発想してデザインしてから、つくるところを探すという2つの方法があるときに、僕はどちらかと言うと前者の方が素直にいいものができるんじゃないかなと思ってるんです。
菅野 僕もそう思う。
萩原 それって一見すると、つくる寄りになって、使う人のこととか売ることを考えないように見えるんですけど、意外にそうでもないと思うんです。当たり前だけど、必要なものをデザインしない限りは売れていかないですからね。むしろ、先に絵を書いて、どこにつくってもらおうかって考えると、無駄が出る気がするんです。
菅野 いや、ほんとにそうですよね。
萩原 つくり方を知らないでデザインするので、割高になったり、無理があったり。ま、つまり両方が必要なんですけどね。
菅野 あともうひとつ面白かったのがね、修さんと僕が教えている専門学校の生徒に、このかみの工作所のプロダクトをやらせた課題。プレゼンを見てびっくりしたんだけども、みんなすごくいい作品をつくったんだよね。
萩原 うんうん。
菅野 なぜかっていうと、紙という素材に、小さい頃から慣れ親しんでいるっていうところだと思うんだよ。だから学生がすんなり入って行ける。木とかね、あまり慣れ親しんでない素材でつくるとなると、加工とか接合とか、色んな技術で悩んじゃって、知らないなりにやっちゃうから、最終プロダクトが成立しないことがあるんだけど、あれはすごかったね。
萩原 そうですね。
菅野 紙ってそういうおもしろさと魅力があるんだなって思いましたね。
萩原 うんうん。このプロジェクトは、現場にも行って、最終的に加工するにはどうしたらいいのか、どこで何ができるのかっていうのも見た上で試行錯誤できるので、ほんとにおもしろいですね。
参加されている20人のデザイナーは、どうやって選ばれたんですか?
萩原 それはねぇ、菅野さんもそうなんだけど、最近デザイナーが固まってきてるっていうか。(笑) 「また?」みたいなかんじで。(苦笑)
菅野 いやぁ。ねぇ。(笑)
萩原 いくつもプロジェクトを抱えているので、被らないようには気をつけてます。全部のプロジェクトが同じデザイナーじゃ嫌ですから。それに、プロジェクトごとに相応しいデザイナーがいるはずなんですよね。僕の中では、この人に頼んでみたいなと思って話している中で、本人がやってみたいかどうかっていうのを大事にしてます。単純に「やってください」って依頼するよりも、やりたい人をこう、なんとなく集めながら、声掛けてっていうか。(笑)
菅野 うんうん。わかります。
萩原 バランスもあるんですよ。展覧会とか発表とかになると、同じような人が集まってもつまらないので、その人なりの考え方とか世界観を僕が把握した上でバランスとって。この5人だったらこんな感じになるかなっていうのを想定して。
菅野 なるほど。
萩原 ただ、出てくるものに関してはあまり考えないことにしてますね。ディレクターとかプロデューサーの中には、「この取手はこういう方がいい」とか言っちゃう人がいるんですよ。僕はそれはやりたくないなぁ。デザインして決めるのはデザイナーの役割だと思うんですよね。もちろん口出すところはあるけど、最終的に決定するのはデザイナー。それはもう100%デザイナーにまかせないと、デザイナーの能力が発揮できなくなっちゃうから。
菅野 うんうん。デザイナーとしてはありがたい言葉です。
萩原 それをね、デザインの能力のない人が、企業も含めてね、ああせいこうせいって言うことが間違ってるのかなと。
菅野 なるほど。
萩原 使い勝手とか、コスト下げたいとか、そんなのはどんどん言えばいいんですよ、条件だから。でもデザイン的な、デザイナーが大事にしていることに口をはさむ企業とかクライアントが多すぎるんですよ。これがたぶん間違いのもと。デザイナーが活かされていない最大の原因。デザイナーっていうのが何をやる仕事なのかっていうことの基本的なところ、そこがわかっていないんですよね、みんな。
第1話 夢追い人とロマンチスト。
第2話 修さんの企画は、ビジネスの匂いがしない。
第3話 色んな人が集まっている状況をつくりたい。
第4話 デザイナーは、何をやる仕事なのか。
第5話 広い意味では営業です。
第6話 2010年だい問題。
第7話 パリにデザインはない。
第8話 自分の中心が世界だと思ってる。
第9話 異質なものを組み合わせる調和の精神。
第10話 優秀な若者は田舎に帰ればいい。