第6話 クリエイトもするし、エディットもする。

船越 学さんの嗅覚は、どういうところに働くんですか?
菅野 学ちゃんが活躍するフィールドっていうのは、僕とは真反対だよね。工業というよりもう少し専門的に特化した企業とのお付き合いの方が、活きるんじゃないかなっていう気がするけどね。
大友 まぁ、僕も自分ではよくわからないんですけど、考えてみると・・・あんまりわかんない。(笑)
船越 そうですか。(笑)
大友 なんでしょうね。
菅野 あまり、とんがったデザインはしないよね。
大友 うーん。
菅野 たまにいるじゃない。ものすごくとんがったデザインをして、絶対売れないだろうなってみんな思ってるのに、絶対に曲げないデザイナー。そういうタイプではないよね。
大友 そうですね。たぶん、クリエイトもするし、エディットもするみたいなかんじなんですよね。
菅野 うん。
大友 0から1をつくり上げたい衝動に駆られると同時に、それがハマっていく様(サマ)に対して興味があったり。
船越 ハマるかハマらないか。
大友 そう。マス目がたくさんあるところに、色んなピースが無理無くハマる。まるで、あらかじめハマることが想定決定されていたかのようにハマるっていうところにグッとくる節があるんです。
船越 なるほど。
大友 それはもう発見というか発掘みたいなかんじ。そこに対しておもしろ味を感じる癖がある。ふふふ。(笑)
菅野 わかる。
大友 そのハマる様が一瞬見えて、またすぐに消えるんですよね。その一瞬見えた図を、もう一度復元するために、じわじわ外堀を埋めてく作業をするかんじ。
菅野 うん。
大友 それは、何もないところからスケッチを何回も書いて、形を削り出していく行為があって、あのときに見たカタチを探り当てる感覚に近いのかな。
菅野 はぁー。
大友 自分から何かをオンして盛ってつくるっていうよりは、そこにあるであろうカタチを、ペリペリはがしていくかんじっていうのかな。見つかることがわかっていて、掘っていく感じ。それが適切かどうかちょっと言葉的にわからないですけど。
菅野 うん。
大友 なんとなくそれは、クリエイティブというよりはエディットに近いような感じがあるから、ハマるというところにおもしろみを感じるんだと思うんですけどね。
船越 なるほど。
大友 そこはね、おもしろくない人には、何にもおもしろくない。「はぁ?」みたいな感じだと思う。
菅野 うん。(笑)
大友 わかる人が、「あ、いいよね、それ。」っていうところだと思う。
船越 はい。
大友 ひとつのモノに対して、その先にあるひとつの「いいよね」がハマるんじゃなくて、4つくらいの「いいよね」とか、その周辺に対してどれだけたくさんのピースがハマるかっていうところを、先回りしてサーチする。そういう感覚ですね。
船越 なるほど。
大友 お客さん側を向いても「いいよね」がハマるし、生産側を向いても「いいよね」、営業側を向いても「いいよね」、お金の面を見ても「いいよね」っていう。
菅野 うん。
大友 それが、あるひとつの気付きによってドラスティックに変わる可能性があるだけで、けっこうドキドキするんですよ。
「やべぇ、これって・・・!(ドキドキ)」みたいな。(笑)
菅野 いや、話を聞いてるとわかると思うんだけど、やっぱり洗脳力があるね。
船越 洗脳力?
大友 えっ!? なんですか? 洗脳?(笑)
菅野 よく学生がさ、「大友さんはこわい。」って言うじゃない。
船越 言いますね。よく聞きます。前回ゲストのミヤケマイさんも、対談の中で
「学ちゃんは、こわいくらいに見えている。」って言われてました。
大友 なんすかそれ?(笑)
菅野 たぶん探りがうまいんだと思うんだよな。ロジックにだんだん核心に近づいていって、最後には「うん、そうだね。」となる説得力を持ってる。
船越 はい。
菅野 デザイナーには色んな語り部がいるけど、学ちゃんの言葉でのプレゼン能力っていうのかな、言葉のデザインみたいなものは、洗練されていると思う。
船越 学さんは、普通の言葉しか使ってない気がします。専門的で難しい言葉はあまり使われない。
大友 知らないからね。(笑)
菅野 あはは。(笑)
船越 すごくわかりやすい言葉の組み合わせで化学反応を起こしていて、だからすごく理解できる。それが「こわい」という感覚に繋がっている気もします。
菅野 正直なところね、江戸意匠をやってるとき、大友学がどう思ってるかっていうことは、ものすごく気になったね。
大友 えぇー!? そうなんですか?
菅野 うん。だって一番身近にいるし、一番説教されるし。(笑)
船越 説教?
大友 いやぁ、あの頃はね、私さすがにちょっと生意気すぎました。(苦笑)
菅野 いやいや、そうじゃなくて、突いてくるところがものすごく鋭いのよ。自分が一番マズいなと思ってるところをズバッと突いてくる。その感性の鋭さが常にあるからこわいんだ。
大友 (おもむろに席を立つ。)
船越 なるほど。
   
  菅野さんと学さんの並々ならぬ信頼関係が浮き彫りになってきました。そうです、学さんは菅野さんのことを本当によく知ってるんです。
第1話 就職する気にならなかった。
第2話 デザイナーの追っかけ時代。
第3話 行為を料理する時代の先駆者。
第4話 伝統工芸の手法でつくる工業製品の代表的なモノ。
第5話 表向きは金。裏を返すと、デザイン大好き。
第6話 クリエイトもするし、エディットもする。
第7話 どんなデザイナーよりも、菅野さんのことを知ってる。
第8話 プロダクトにグラフィックを取り入れた走り。
第9話 デザインにできること。
第10話 最近のお仕事。