第4話 空中分解するんじゃないかと思った。

菅野 火の道具展の話する? 写真ある?
ミヤケ あります。鍋敷き、お鍋が八寸・六寸・四寸、それと香炉が3色、あと薬味鉢が2種類。
菅野 買わせていただきました、私。
ミヤケ ほんとですか? すごい! 光栄です。ありがとうございます。
菅野 内緒なんだけど、ミヤケさんのだけ買わせていただきました。(笑)
ミヤケ ありがとうございます。光栄です。
菅野 両親にプレゼントで。
ミヤケ すごーい! 嬉しい。どれですか?
菅野 小鉢の松ぼっくりがついてるやつ。あれを3つ。
ミヤケ ありがとうございます。恐れ入ります。火の道具展は、益子の作家さんとのコラボレーションということで、菅野さんからお声がけいただいて、やらせて頂きました。
菅野 益子に住んでる四本さんという陶芸作家から、「益子焼が衰退していくばっかりで困ってる。」という相談をいただいたんです。何か、益子を盛り上げる方法がないでしょうか? って。
ミヤケ はい。
菅野 よかったら、1度来てくれないかっていうことで行って話を聞いて。やまに大塚という会社を紹介してもらったんだよね。
ミヤケ なるほど。
菅野 ただね、デザイナーが関与して、デザイナーズブランドの陶器っていうのもねぇ、あんまり長い間もつようなものにはならないと思ったんで、思い切って鍋だけをどーんとやったの。益子に行ったら鍋がすごい! っていうね。あれはおもしろかったなぁ。
ミヤケ 土鍋がね、けっこう人気なんですよね。
菅野 そうそう。
ミヤケ やまに大塚のショールームに行ったとき、おもしろかったですよね。やまにさんのショールームって、すごく広いんですけど、そこに所狭しと焼き物が並んでるんですよ。
菅野 そうそう。
ミヤケ そこでいきなり、「作品を見ていただいて、1時間以内にパートナーの職人さんを決めてください。」とか言われて。
菅野 そうだった! 無茶だよね。(笑)
ミヤケ 私以外の人はパニックを起こしてましたね。(笑) 「作家のプロフィールもないのに選べないよ!」とか言って、けっこうみんな焦ってた。
菅野 あれ作家さん何人くらい集まってたのかなぁ。
ミヤケ いや、だってあそこのスペース全体にあったんですよ。
菅野 益子中の作家の作品がぶぁーっと並んでるところで、「はい、選んでください。」って。(笑) デザイナー10人が呆然としちゃってね。
ミヤケ そうそう。私は10分で決まっちゃったんですけど。
菅野 早かったねぇ。
ミヤケ 私は自分がモノをつくる人間なので、作品を見ると作家さんの性格はだいたいわかるので、この人は合う、きっとこの人とは合わないっていうのがはっきりしちゃうんです。
菅野 なるほどね。
ミヤケ もちろん、コラボさせていただいた作家さん以外にも、いいなぁって思う作品はあったんですけど、やっぱり自分と仕事をするっていう意味において、恐らく年齢とかやりたいモノとかが比較的柔軟というか、近い人というのを、ぱっぱっぱっと選んじゃいました。
菅野 佐藤友美さんという女性の作家でね、年齢的にも近いのかな。
ミヤケ そうですね。
菅野 東京で仕事されてるんですよね。
ミヤケ はい。やまにさんのところでも、けっこう売れっ子さんだって伺いましたよ。
菅野 ちょっと毛色の変わった人だよね。ザ・職人! というかんじではなくて。
ミヤケ ご自分でも、ある程度はデザインができる人。
菅野 あっという間に決まっちゃったんだよね。
ミヤケ あとは、技術的に難しいモノを、masaさんと、四本さんにやってもらいました。あのときはすごい楽しかったですね。
菅野 僕は、あのときが一番苦しかった。(笑)
ミヤケ え、ほんとですか? 私すごく楽しかった。(笑)
菅野 火の道具展ほど苦しかったことは、あまりないかもしれない。
ミヤケ あ、展示の時期とかですか?
菅野 いや、実は、陶芸作家とデザイナーがかなり当たったのよ。
ミヤケ そうなんですか?
菅野 もう、空中分解するんじゃないかと思った。
ミヤケ ほんとに? 私のところ全く問題なかったですよ。
菅野 全くなかったでしょ? だけど、他は色々あってね、実は大変だったんですよ。
ミヤケ そうなんですか。まぁ、職人さんですからね。
菅野 うん。
ミヤケ ザ・職人さん。
菅野 やっぱりさ、デザイナーはデザインにミリを求めるわけよ。高さが 5mm 違う、ここのふくらみが全部で 10mm 違うってことをやるわけですよ。デザイナーだから仕方が無いよね。だけど作家さんたちは、手で轆轤をひいてるんだから、そんなにぴったりできるわけがないじゃないかという意見。
ミヤケ そうですよね。
菅野 作家さんたちは、雰囲気が出てればいいでしょ? ってなるわけですよ。さらに、作家さんたちは作家さんたちで、自分の手の色を加えたくなってくる。
ミヤケ うんうん。
菅野 実を言うと、それは狙ってたことなんだけども、デザイナーにとっては難しかったんだなぁ。
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。