第8話 悪くてもドロー。

ミヤケ もともとそう思ってたんですけど、やっぱり日本の工芸とか美術に勝るものはないって思いました。前にも増して。
菅野 うんうん。
ミヤケ ヨーロッパの人たちって、ディベート好きじゃないですか。
菅野 うん。
ミヤケ 私の作品は特に、日本の伝統的なものに立脚してるので、どこに行っても色々聞かれるんです。
菅野 うんうん。
ミヤケ もともとヨーロッパは、装飾美術とか工芸を下に見る傾向が非常に強いという土壌があるので、すごい論破されるんです。
菅野 なるほど。
ミヤケ だけど、私がちゃんと説明すると、まぁ、悪くてもドロー。(笑)
菅野 ドロー。(笑)
ミヤケ やっぱりこの人たちは、そこに対しては言えないなっていうか。
菅野 というと?
ミヤケ 商売っていうことで考えると、西洋のプラットフォームは強固で、やっぱりそれに乗らないとダメなんでしょうけど、美しいモノをつくるっていう事に関して言えば、やっぱり日本の美術に勝るモノはなかなかないです。技術的にも、感覚的にも。
菅野 なるほど。
ミヤケ 例えば、ポロックにしても、ゴッホにしても、私には「あ、まだそんなところやってるの?」って見えるんです。日本は何千年も前にそれをやってるから。
菅野 うんうん。
ミヤケ 西洋美術を見るときも、日本美術の眼で見てるから、「えっ? ここになってやっと抽象とか出てくるんだ。」とか、「ここになってオートマティックペインティングとか出てくるんだ。」とか思っちゃうんです。
菅野 なるほどね。
ミヤケ モネとかも、朦朧体の一種かしら? みたいなかんじで。墨絵とかにはもともとあるから。そういう日本眼で見てるから、ふぅーんって思うんですよね。
菅野 うーん。
ミヤケ もちろん、スケール感とか、プレゼンテーション能力とか、素材の堅牢さとかは素晴らしいし、圧倒されるものはいっぱいあるんですけど、自分とは違うし、自分の目指すところでもないなぁっていうのは、やっぱりありますよね。
菅野 なるほど。
ミヤケ 西洋は、移ろい行くものとか、フラジールなものとか、変容しやすいとか、弱いものに対して、イコール低いものっていう意識があるじゃないですか。素材としても、鉄とか石は偉いみたいな。
菅野 日本人は、朽ちていくところの美しさみたいなのが好きだよね。
ミヤケ そうなんです! 古くなるとか、年季がかかるっていうことも、別に悪いことではなくて。
菅野 それもまた味になるというかね。
ミヤケ 西洋は、シンメトリカルで安定したものとか、永続するみたいなものが素敵とされてるじゃないですか。日本はやっぱりそうじゃないから、それじゃあ色気がないねって。そういう意味で、私はやっぱり日本の美術はおもしろいなぁって思いますね。
菅野 建築でもそうだもんね。紙と木でつくり上げた日本の建築と、石でつくり上げた西洋の建築っていうのは、やっぱり違ってて。
ミヤケ そうですね。
菅野 石の建築は何百年も保つけど、紙と木の建築はそんなに保たない。保たないけれども、そこには朽ちていく素晴らしさみたいなものってあるじゃない。
ミヤケ はい。
菅野 マイさんは、最終的にどういうところを目指していきたいの?
ミヤケ 私ですか? うーん。身内に迷惑かけずに、好きなことやっていけたらいいなって思っているんですけど。(笑)
菅野 なるほど。(笑)
ミヤケ うっかりすると身内に迷惑かけそうになるので、気をつけなきゃって思ってます。(笑)
菅野 いいなそれ。(笑)
いま一番興味があることはなんですか?
ミヤケ 子供のモノやりたいです。
菅野 あぁー。
ミヤケ やりたい。そろそろやりたいなって。
菅野 子供のモノ? 子供のコト? 遊具? 玩具関係?
ミヤケ そこまでいかなくても。
菅野 絵本とか?
ミヤケ そうですね。前からそういう話は頂いてたんですけど、なんか子供のモノってなると、日本ってすごいガチガチなところがあって。
菅野 あ、そうか。
ミヤケ 安全性とか色んなことが、すごく過敏になるんですよね。そういうのがあって、私にはちょっと厳しい土壌だなっていうところがあったんですけど、最近は親の世代も変わってきたりしてるので、そろそろおもしろいんじゃないかなって。
菅野 なるほど。
ミヤケ あとは、もうちょっとお年を召した方のモノとか、もおもしろいんじゃないかなって思います。
菅野 うんうん。
ミヤケ フランスに行って思ったんですけどね、老人たちがすごいオシャレなんです。
菅野 そうだよね。
ミヤケ 日本人って、なんか気がつくとみんな鳩みたいな色の服着てる気がして。
菅野 鳩みたいな色。(笑)
ミヤケ みんな白いスニーカーに鳩色の帽子に、やっけんにウエストポーチみたいになっちゃうじゃないですか。
菅野 たしかに。そうだね。
ミヤケ やっぱり、年取ると重いものが着れないとか、機能が必要になってくる部分ってあると思うんですよ。だけど、現代にはそこに適合した素材がいっぱいあるじゃないですか。例えばスポーツウェアとかね。色んなものが出てきてるのに、デザインとのマッチングがうまくいってない気がして。
菅野 うんうん。
ミヤケ 自分が年取ったときに、鳩色の服しか無かったら嫌だなっていうのもあるし。
菅野 そうだねぇ。
ミヤケ もっと楽に着れてすごくいいものとか、やっぱり身体機能が落ちていくじゃないですか。そういうときにサポートできるようなもの、例えば楽に着れるとか服とか、寝具とかも含めて、プロダクトでやれることもいっぱいあるんじゃないかなと思って。
菅野 なるほど。おもしろいなぁ。なんか、子供こどもしてないキャラクターというか。大人の人が見ても、いいなぁって思う子供のモノとか。
ミヤケ 最近は、そういうの目指してやってるところもいっぱいあると思うんですけど、まだ輸入的というか。
菅野 あぁ。
ミヤケ 日本的なものっていうのが、まだそんなにないのかなぁと思ってたりするんですよね。
菅野 確かにそうだよなぁ。
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。