第6話 自分が欲しいものをつくってる

このお鍋は、どういうコンセプトなんですか?
ミヤケ 「ハレの日の鍋」っていうテーマです。
菅野 そうそう。
ミヤケ 鍋ってなんとなく、炬燵にみかんみたいな、すごくローキーなかんじじゃないですか。お正月とか人が集まるときって、鍋なら支度が簡単でいいんだけど、柄が唐草模様とかだと、ちょっと手抜きっぽいかんじになるから、ちょっとこう金とか入れて、おめでたいかんじにしてみたらどうかなぁみたいな。(笑)
菅野 うんうん。
ミヤケ さっきの菅野さんの言葉で、「はっ! そうかも!」って思ったんですけど、プロダクトの方は、全体の70%の見えない人を想定してつくるって仰ってたじゃなすか。私の場合、自分が欲しいものをつくってるかんじなんです。
菅野 なるほど。
ミヤケ そさっき言ってくださった、鍋の蓋に「喜」という漢字が入ってるのもそうで。
菅野 うんうん。
ミヤケ 今、既存にはないモノで、自分が欲しいモノをつくってるんですね。たぶん、大きいパイの勝負をしたことがないので、呑気にそんなことやってるんですけど。
菅野 うん。
ミヤケ お鍋の蓋にしてもそうで、お鍋って大きいから、蓋を取ると置く場所をすごくとるじゃないですか。だから私、蓋の上に具材を載せちゃったりするんです。そこから、鍋の裏側に鶴亀を立体的に彫って絵皿みたいにして、お皿としても成立するモノをつくったんですね。
菅野 うん。わかる。
ミヤケ いつも自分がやっていて、なんでそういう風にしないのかな? と思ってるところがあるんです。そういう立脚点っていうのも、ちょっと違うのかなって。
菅野 全然違う。おもしろいよね。どちらかというと、プロダクトデザイナーってそぎ落としていくデザインをするんだよね。何かを付加していこうっていう気持ちは全くない。ある立体物に対して、ここ削って、ここも削って、一番シンプルな形で自分の表現ができないかなって考えてる連中。でも、マイさんの場合は、グラフィックの方もやってるから、そこのプロポーションに付加していけるんだよね。
ミヤケ うん。
菅野 たとえばその「鶴亀」とか、「喜」とか、プロダクトデザイナーが絶対に考えないような発想が付加されていくっていうおもしろさがあったよね。あれはたぶん、みんな勉強になったと思う。
ミヤケ そうですか?
菅野 みんなそう思ってると思うよ。今度僕もパクろうかな。(笑)
ミヤケ 著作権頂きますよ。2割ほど。(笑)
菅野 またやりたいよね。ああいうの、おもしろいんだけどなぁ。
ミヤケ うん。今回は焼き物でしたけど、いろんな素材でね、鉄とか。
菅野 今度やるんだ、「いいもんや」っていうの、鋳物で。
ミヤケ あら、いいじゃないですか。
菅野 江戸意匠もまたやりたいんだよね、今年は。
ミヤケ 早めにお願いします。(笑)
菅野 早めにね。(笑)
ミヤケ けっこう大変なんですよ。まずデザイナーのコンセンサスとって、人数の選定して、職人さんを選んで、すり合わせがあって、そこからプロトタイプつくって、プロダクトで値段を付けて、ディスプレイとか展示まで自分たちでやるんですもん。すごいですよね。
菅野 ほんとだよね。
ミヤケ パッケージングもね、ものすごい大変なんです。だから、バイトを雇いましょうよ、美大から。パッケージングとか、実際に売ったりするところは、そういう人の力を借りて。そのへんの負荷は、たぶんみんな軽減したいと思ってるんじゃないかな。いまはデザイナーが売り場にも立ったりしてますからね。だけど、それなかなか難しくなりますよ、きっと。
菅野 そうだよね。仕事もあるしね。
ミヤケ バイト募集してますって書いてください。(笑)
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。