第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。

ミヤケ 私、ユナイテットアローズさんの服を少し。
菅野 やられてますよね。
ミヤケ はい。グリーンレーベルの子供服を、何年かやらせていただいたのと、もうひとつは、ティンカーベルさんも1〜2年やらせてもらったんですけど、やっぱり子供の世界独特のものがあるんですよね。
菅野 うんうん。
ミヤケ 大人って、着る服によって職業とか年齢とか信頼とか、お金持ってるか持ってないかとか、そういうのすごくあるじゃないですか。だけど、子供とか老人の服って、社会とのコネクションが切れてる分、自由度が高いと思うんです。だからつくり手としてはおもしろい。
菅野 なるほど。
ミヤケ 私なんかは、この年齢だと普通は社会の一員で、マトリックスの中だとココで、ということは、こういう服を着て、こういう言動で、こういうところでお買い物してっていうところから完全にズレちゃってるじゃないですか。河原者というか。
菅野 うーん。
ミヤケ 日本は、そういうのを極端に恐れる文化があるじゃないですか。河原者にはなりたくないみたいなところが、やっぱりあると思うんですよ。
菅野 うん。
ミヤケ それに対して、まぁ私がこういう性格だからかもしれないですけど、本当にそうなのかなって思っちゃうんです。こういう生き方の方が楽なと。
菅野 なるほどね。
ミヤケ 老人とか子供って、つまりそういうことじゃないですか。いわゆる社会と切り離されたところで個人の生活を送っていて、だからといってなにか問題があるわけでもないじゃないですか。
菅野 そうだね。
ミヤケ みんな子供だったし、いずれみんな老人になって社会から切り離されるんだから、そういうところは楽しい社会なのではございませんでしょうか的な提案が、もっとあってもいいんじゃないかなって思うんです。
菅野 うん。確かに日本人から見て、西洋のおじいちゃんおばあちゃんたちって、オシャレだよね。なんで日本のおじいちゃんおばあちゃんたちって、あぁなんだろうね?
ミヤケ たぶんそれは、社会の人が老人に関わらなくなるからだと思います。人に見られてるっていう意識がなくなると、人間楽な方向にいくじゃないですか。それは老人に限らず、女の人でも結婚して子供産んで、誰も私のこと見てないわって思うと、みんなわりと同じ路線に流れていくじゃないですか。男の人もたぶんそうなんだと思うんですけど。
菅野 そうだね。サラリーマン生活長くて、部長クラスくらいになると、だいたいスーツの色って決まってくるよね。
ミヤケ ヨーロッパは、今でも階級があるので、階級による衣服の差っていうのがあるんです。江戸時代以前の日本みたいに。だけど、すごくおもしろいんですけど、フランス人にとって、センスがない人は、お金があっても、美人でも、賢くても、全く意味がないんです。
菅野 ほぉー。
ミヤケ パリって、すごく京都みたいなんです。みんな階級が分かれてて、紹介がないそのグループに入れないんですよ。だけど、上に行けば行くほど、センスがないと入れないんです。要は、成金でもセンスのない成金っているじゃないですか、この人たちは上流階級には入れないんです。
菅野 そうなの?
ミヤケ そのセンスって何かっていうと、教養だったり、美意識だったり、余裕のある生活を丁寧にしているかということなんです。がむしゃらに働いて、茶封筒からお札出してっていうことをやってたら、入れてもらえないんですよ。
菅野 はぁー。
ミヤケ そこらへんが、すごくおもしろいなぁって。逆に、すごく若くてお金も何もなくても、すごくセンスがあると、みんなにちやほやされて、いつの間にか上の方のグループに吸収されていったりとかするんですよ。
菅野 へぇー。
ミヤケ でも、日本はもともと、そういうところがあったような気がするんですよ。たとえば江戸時代には、粋だっていうことだけで、そんなに階級の高くない人たちが、のしてた時代があったり、平安時代は、お公家さんたちがセンスで競って、センスの善し悪しでその人の価値が決まるみたいなところがあったじゃないですか。そういうのって、やっぱりすごく成熟した文化だなぁって。
菅野 うんうん。
ミヤケ 日本は戦争に負けて貧しくなったせいか、お金とか教育とか、そういうわかりやすい定規で計るところありますよね。例えば、東大に入るとか、一千万円稼ぐとか、わりと単純じゃないですか。
菅野 うん。
ミヤケ でもセンスって、1人ひとりの持ち味じゃないですか。私が菅野さんのセンスを真似しても絶対素敵に見えないし、菅野さんが私のセンスを真似しても、おかしなかんじになる。その人独自の何かというものが、スケールとして重要になるっていうのは、非常におもしろいし、いいんじゃないかなと思って。
菅野 日本人て、感性に自信が持てないんだろうね。
ミヤケ 持てばいいと思うんです。日本人ってものすごくレベルが高いんですよ、全員が。日本の女の子なんて、世界的に見てもすごいオシャレだし奇麗なのに。
菅野 うんうん。
ミヤケ だから私、ギャルとかアゲハとか、あういう系統とかは、「やれやれー!」って思うんです。「もっと極めろー!」って。すごい文化だと思うんです。
菅野 たしかにね。(笑)
ミヤケ 日本は、意外とそのプラットフォームが豊かですよね。社会のヒエラルキーとか、様相のプラットフォームに縛られなくて、すごく色んなものがあるし、どんどんみんなが自分のやり方で極めていって、それぞれみんなが天下を取ったら、それはすごくおもしろい。
菅野 おもしろいね。
ミヤケ 価値観は単一的にならない方がいいですよ。だってやっぱり、みんな同じ服着てたりとかすると、見てるだけでもうんざりするじゃないですか。
菅野 うんうん。
ミヤケ ヨーロッパは、そこらへんの認識がすごく強いです。誰かの真似なんて絶対嫌なんです。だからファッション誌みたいなマニュアルとかも売れない。みんな、自分の味付けというか、自分を活かすみたいな方向にいってるんだろうなと。
菅野 日本人って、ルールを作ってもらいたい人種なのかな。規則を。
ミヤケ 人目を気にする、しすぎるところがあるんですよね。それは良いとこでもあるんですけど、いきすぎるとねぇ。
菅野 デザイン、アーティスト含めた業界がね、社会的な価値を認めてもらうためには、その感性みたいなものを、日本人全部がもう少し自信を持ってもらわないと、なかなか評価の対象にならないんだよね。
ミヤケ うん。そうなんですよね。パリはそこが羨ましいですよね。間違ってても、みんながみんな「俺のNo.1を目指す!」っていう、なんかおもしろいんですよみんな。とても付き合いたいとは思えない人もいるけど。(笑)  けど、楽しいですよね。
菅野 そうだね。
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。