第7話 私、サバティカルで

ミヤケさんの「絵師」という肩書きについて教えてください。
ミヤケ 絵描きでも絵師でも、基本的に私、名前はなんでもいいんです。ただ、デザイナーとかアーティストとか、そういう確立した名前ってあるじゃないですか。イメージがもう設定されているというか。
菅野 うん。
ミヤケ 私はそういうかんじではないというか。絵を描いているので、絵を描きます。(笑) うまく言えないけど、絵を描いている。なんでも描きます、なんでもっていうと語弊があるけど、絵を描いて、食べてます。
菅野 うんうん。
ミヤケ その絵っていうのは、たぶん平面に描く絵だけじゃなくて、絵空事の絵とか、「そういう画(え)を描いているのかい?」っていう、プランみたいな画もあるじゃないですか。空想上、想像上だけども、頭の中でできあがっている、まぁイマジネーションみたいな。そういうかんじです。
菅野 2001年からスタートしてるんでしょ?
ミヤケ はい。2001年から画業です。
菅野 その前は? 全然何もやってないの?
ミヤケ そうですね、作家的なことはあまり。ちょこちょこはありましたけど。学生時代にポスター展みたいなので賞を頂いて、そのとき審査員をやっていた文具会社さんから、「うちでステーショナリーのデザインをやってくれない?」とか、雑誌とか子供の絵本の挿絵の話は来てたんですけど、まったくプロ意識はなく、「好きなことやってお金もらえて超ラッキー!」みたいな。(笑)
菅野 装丁もやってるでしょ?
ミヤケ やってます。装画。
菅野 装画。あれもすごいんだよなぁ。あと、個展で見たんだけど、立体的な表現の方法って、あれはもう最初から?
ミヤケ そうですね。2、3年目からは、平面でどうやって奥行とかを見せるかってことをやってました。もともと日本画ってそういうものなんですよね。そこを、もうちょっと違う事がやれないかなって。
菅野 そうなんだ。
ミヤケ もともと私、切り絵とか、ああいう累積していくような、コラージュ的なものがすごく好きだったので、自分で好きでやっていたものを、作品にして出してみようかなぁっていうかんじで。
菅野 あれはねぇ、一夜にして生み出せるようなものではないなって思ってたんだけど、こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、2001年からってことは、まだ10年目?
ミヤケ 10年もたったんですかね。あはは。(笑)
菅野 そうかぁ。
ミヤケ それで私、サバティカルで。
菅野 さばてぃかる?
ミヤケ サバティカルって言うらしいんですけどね。
菅野 なにそれ? サバティカル?
ミヤケ 学者さんとかって、7年仕事すると、サバティカルっていう1年間のお休みをもらえるんですって。
菅野 ほう。
ミヤケ それは、学者とか研究者があまり縛られすぎないために、現場から離れて広く世の中を見るためのお休みなんですって。
菅野 へぇ。
ミヤケ 私も全然知らなかったんですけど、去年がちょうど7年目で、奨学金頂いてパリのボザールに行けることになって。
菅野 そうなの?
ミヤケ それまでが、ちょっと仕事しすぎちゃて、もう首までめいっぱい仕事してたんです。自分で言うのもなんですけど、気が付いたら何年も、ほんとに仕事しかしてなくて。
菅野 うん。
ミヤケ 母親の誕生日プレゼントをマネージャーに買ってきてもらうみたいな、非人道的なことになっていて、さすがにこれはいけないなと。
菅野 うんうん。
ミヤケ しかもその頃、身体もちょっと。毎日20時間くらい座りっぱなしで細かいことやってるんで、偏頭痛と腰痛がひどくなっちゃって、これはまずいと。それで、1年間お休をみいただいて、パリに行ってきたんです。
菅野 はぁー。
ミヤケ パリでも、本来だったらちゃんとみんな仕事してるんですけど、私はただ、遊んで暮らしたみたいな1年だったんですけど。(笑)
菅野 えっ!? 奨学金もらって?
ミヤケ そう。(笑) 本来だったらちゃんと仕事するんですけど、私は、1年間ただ遊んで暮らしたみたいな。(笑)
菅野 えぇー!
ミヤケ 奨学金出した人が、「ミヤケさんは、なんにも勉強してこなくていいから、遊びなさい」って言ってくれたので、真に受けて「はい」って言ってなんにもしないで帰って来ちゃったんですけど。
菅野 そうなの?(笑) パリと、他にもどこか行ったの?
ミヤケ 夏休みの間だけニューヨークに行きました。私、骨董が好きなので、京都の柳さんっていう骨董商の方がニューヨークに出されてたので、丁稚奉公やってたんです。
菅野 あれ? でもさ、1年以上行ってなかった?
ミヤケ えへへ。(笑)
菅野 そうだよねぇ?
ミヤケ ほんとは1年で帰ってこなきゃいけないんですけど、1年と2ヶ月くらい。ちょっと長引いちゃった。(笑)
菅野 その間、パリでなにか作品は、1個くらいはつくったんでしょ?
ミヤケ (小さく首を振って)えへへ。(笑)
菅野 ほんとに!?(爆笑)
ミヤケ ほんとに何もやらずに、ぼけーっと過ごしました。
菅野 はぁー、いいねぇ。
ミヤケ 10キロ太りました。
菅野 うわっはっはっ!(笑)
ミヤケ 仕事しないと太ります。
菅野 そうかぁ。(笑)
ミヤケ そんなかんじなので、正確に言うと、7年+1年お休みで8年なので、今年が9年目です。
菅野 9年目か。はぁー。何か変わった?
ミヤケ 10キロ太りました。(笑)
菅野 あはは。(笑)
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。