第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。

菅野 江戸意匠をやったときに、マイさんから言われたことがあって、それがすごく印象的だったんだけど。
ミヤケ はい。
菅野 我々プロダクトデザイナーって、誰に買ってもらったっていうところにあまり意識がないんだよね。どちらかというと、何個売れたかっていうところを気にしてる。一方でマイさんは、誰が買ってくれたかっていうことを気にしてるよね。
ミヤケ どんな人がとかね。
菅野 そこをすごい追求してて、ちょっと驚いたよね。
ミヤケ 知れるんだったら知りたいですよね。
菅野 しかも、そのフォローまでちゃんとやってるよね。次の展覧会のときにお知らせしたり。
ミヤケ あ、それは、「次の展示があったら呼んでください。」って言ってくださった場合だけですよ。そういう方にはみんな送りますけど。
菅野 偉いなぁ。僕なんて、すぐ何個売れたとか考えちゃうんだよな。100個つくって60個売れた。よし、成功! みたい。やっぱり数が基本になってるのかなぁ。
ミヤケ っていうか私、そんなにつくれないですからね。(笑) ほんと覚えられるくらいですから。
菅野 でもあのとき、その辺を改めていかなきゃいけないなぁって思ったりもしたよ。
ミヤケ 自分のいないところで売れたものはわからないですけど、私とかマネージャーがいて、話しかけてくれる人っているじゃないですか。
菅野 うん。いるいる。
ミヤケ 「次も絶対呼んでください。」とか、「他にどんなのがあるんですか?」って言ってくれたり。そしたらやっぱり嬉しいので、連絡先を書いてくださればお知らせしますって。だけど、数が多いとできないですよね。何百個、何千個の単位になるとちょっと。
菅野 ただねぇ、言いたくないんだけど、デザイナーで人間国宝になった人っていないでしょう。
ミヤケ いないんですか?
菅野 いない。
ミヤケ えぇー! それはおかしいですよ。
菅野 デザイナーの社会的地位っていうのがね、やっぱりまだまだなんだよなぁ。
ミヤケ そうなんだ。
菅野 やっぱりその辺で、アーティストとデザイナーの違いというか、日本が見出す価値の違いが見て取れるよね。
ミヤケ うん。そういうのはね、本当によくないです。だって、基本的にはアーティストでもデザイナー的な人もいるし、デザイナーでもアーティスト的な人もいるし、微妙じゃないですか。
菅野 うん。
ミヤケ それって、さっきのメディアムでジャンルを分けるのと一緒です。ほんとうに悲しいです。
菅野 そうなんだよ。
ミヤケ 私とかが、企業の人からお仕事もらったりすると、社長さんに会うじゃないですか。アートから一番遠いって言われてる実業家の人でも、どう考えてもアーティストっぽい人っていっぱいいるんですよ。
菅野 うんうん。
ミヤケ まずビジョンがあって、その絵を具現化して、見える、触れる、もしくは動くようにするためには、手段を選ばないみたいな気迫をお持ちなんですよね。
菅野 たしかに。
ミヤケ それって、アーティストが持っていなきゃいけない要素じゃないですか。自分が見たいとか、自分がつくりたいって思ったモノのために命を懸けるみたいな。あと職人さんとかもそうですよね。寝る暇を惜しんで、自分のパンをつくるとか。それってすごくアーティストっぽいなと思うんです。
菅野 そうだよね。
ミヤケ だから一概には言えないし、それはモノをつくる人はみんな理解してると思うんですよ。プロダクトの人も職人さんも、企業の人もそうなのかもしれない。もしかしたら、みんなそういう要素があるのかもしれない。ただ便宜上、職業名がついているっていうだけですよ。それはなんか残念です。誤解されてる!
菅野 うん。まだまだ話せるな。今日はおもしろいね。
ミヤケ ありがとうございます。
ひとまずこの辺りでお開きとさせてください。今日はありがとうございました。
最近のミヤケマイさん
目黒川沿いに佇む和菓子屋「HIGASHIYA」の10周年を記念して、4組の多彩なクリエイターとコラボレーションしたひと口果子を発売。その第一弾がミヤケマイさん。「一語一会(イチゴイチエ)」と題した今作は、「蟻×10(=ありがとう)」など、感謝や思いやりの言葉が添えられている。2013年7月18日まで、HIGASHIYA GINZAほかで購入できます。

HIGASHIYA ホームページ www.higashiya.com
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。