ミヤケマイ

ミヤケ マイ(絵師)
画廊や美術館、アートフェアでの展示のみならず、エルメスなど企業とのコラボレーション、本の装丁、執筆など活動は多岐に渉る。2008年奨学金を得て、Ecole Nationale superieur des Beaux-Artsに留学。
「膜迷路」羽鳥書店(2011)、「ココではないドコか」芸術新聞社(2008)、「おかえりなさい」村越画廊(2005)の3冊の作品集がある。短編小説「おやすみなさい。良い夢を」講談社を2011年に上梓。

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第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。

菅野 こんにちは。今日はよろしくお願いします。
ミヤケ はい。よろしくお願いします。
お2人は、いつ頃からお知り合いなんですか?
ミヤケ 最初のきっかけは、デザイナーの橋本誠さんです。
菅野 僕が企画した、「江戸意匠」の第1回目のときですね。
ミヤケ はい。
菅野 橋本誠さんから紹介してもらったとき、ミヤケさんがちょうど個展を開いてたんですよ。あれどこでしたっけ?
ミヤケ はい。銀座です。
菅野 まずは、そこで作品を見せていただきました。
ミヤケ ありがとうございます。
菅野 こういうことをやられている人がいるんだって知って。江戸意匠にいいなぁと思ってね。まぁ、参加してくれるかどうかわからなかったんだけども。
ミヤケ 畑が違うので。
菅野 そうそう。是非、参加してくださいってお願いをして、何度か打ち合わせを繰り返して。
ミヤケ はい。そうでした。
菅野 そのときミヤケさんがね、
「プロダクトデザイナーって真面目ですねぇ」
って言ったのが、すごく印象的だったんだけども。(笑)
ミヤケ そうですね。(笑)
菅野 いや、プロダクトデザイナーってみんな真面目にさぁ、下準備をしてくるわけよ。
ミヤケ はっ! すいません!
菅野 いや、そういう意味じゃないよ!(笑)
ミヤケ なんか、今日はもしかしたら、おしおき会みたいな事なんじゃないかって、実はそんな気がしなくもないなって思いながら来たんです。
菅野 あはは。(笑)
ミヤケ もともと橋本さんとは、一度お仕事をさせていただきたいなと思っていたんです。
菅野 うん。
ミヤケ あと私、工芸からのお仕事ってけっこう多いし、自分の作品も、工芸とのクロスオーバー的なところがあるので、日頃会う人の80%は職人さんみたいなかんじなんです。
菅野 そうですよね。
ミヤケ 江戸意匠は、テーマ的にもおもしろそうで。だけどやっぱり、いかんせん私がプロダクトの人間ではないので、私でいいんですか? っていう気持ちはありましたね。
菅野 そうだったの?(笑)
ミヤケ 私、ミリ単位で設計して図面を描いて、プロダクトを世に出すとか、上代をいくらにするとか、全くできないので、ちょっと、というか非常に無理があるのではないのかって、尻込みはありましたね。
菅野 でもやっぱり、企画する側としては、すごい幅が広がって、嬉しかったよね。
ミヤケ そうですか。
最初の個展でのミヤケさんの作品は、どのような印象でしたか?
菅野 あのときって額って言うのかな、あと掛け軸みたいなものがメインで展示されてたので、プロダクトはあまり展示してなかったんですよね。
ミヤケ はい。
菅野 江戸意匠は、プロダクトをやる企画だったので、果たしてどういうプロダクトをやってくれるのかなぁって思ったんだけど、実はプロダクトいっぱいやられてるんですよね。
ミヤケ いっぱいじゃないですよ!(笑) みなさんに比べたら、どう考えてもちょこっとしかやってないです。
菅野 風呂敷とか扇子とか、あと徳利とかね、あれ何て言うんだっけ?
ミヤケ 金沢の福光酒造さんです。
菅野 それが素晴らしかったんですよ。
ミヤケ ありがとうございます。
菅野 実は、江戸意匠の第1回目は、東急ハンズ銀座店の杮落としでやったんだけど、すごかったねあのとき。知らないかもしれないけど。
ミヤケ 私いなかったんです、初日。すみません。
菅野 開店前から人がすごい並んでるんですよ。あ、これ江戸意匠すごいなって思ってたら、開店と同時にぶぁーっと、ミヤケさんのところに集中して行くわけですよ。
ミヤケ ほんとですか?
菅野 ミヤケさんのだけ、あっという間に完売状態。あれはすごいなぁと思いましたよ。
ミヤケ あの、それはですね、菅野先生とか皆さんは、価格帯が高いのが多かったんですよ。私のは、安いところでやってるので、買いやすいんだと思います。
菅野 アリガトウカードとかね。
ミヤケ そうそう。そういう底辺でやってるので。(笑) 誰でも買えます。
菅野 だけど、もう少し高い金額つけてもいいのになって思ったんだけど。
ミヤケ あ、それは私じゃなくて、メーカーさんが決めてるんです。
菅野 そうなんだ。
ミヤケ そうなんです。だいたいメーカーさんからお仕事の依頼をいただいて、ディレクションして、こういうものつくります。絵が必要な場合は絵を描いて、素材や色を決めてみたいなことをやるんですけど、お金のところは全く。私とは製作のところで終わりみたいなところがあるので。
菅野 江戸意匠の1回目、ル・ベインでやったとき、ものすごい掛け軸をつくってくれたじゃない。
ミヤケ はい。
菅野 あれは、錫光さんをはじめ、色んな職人さんが入り込んでくれたじゃない。
ミヤケ そうですね。
菅野 紐は桐生堂の羽田さん、表具は松清堂の岩崎さん、錫の軸先は錫光の中村さんがやってくれて。集まってくれた職人さんたちみんながコラボレーションしたじゃない。ミヤケマイさんの掛け軸は、あの展示の中で、すごくシンボリックでしたよね。
ミヤケ ありがとうございます。
菅野 あれも売れちゃったんだよね。
ミヤケ あんなに贅沢なモノができたのは、錫光さん、岩崎さん、羽田さん、あと切子の大久保さん、みなさんのおかげです。
菅野 そうだね。
ミヤケ 江戸意匠をやらせていただいて、一番嬉しい事は、たくさんの職人さんと、ひとつのモノをつくれる事なんです。
菅野 うんうん。
ミヤケ 自分の個展とかだと、職人さんを何十人も集めるってなかなかできない事だし、職人さん自身も、協働でやるっていう手順がないんですよね。
菅野 なるほどね。
ミヤケ メールでやり取りをして、はいわかりましたって進むわけにはいかないんです。でも、江戸意匠の場合は、職人さんたちがお互いを知っているから、「ここは岩崎さんに、ここまでやってもらって、ここからこうして」っていう、職人さん同士のコミュニケーションが成立してる。
菅野 うん。
ミヤケ あの人はこういう風に仕事をするから、こうした方がいいだろうとか、そこの連携が非常にスムーズにできるので、切子・錫・表具・それから組紐の職人さん4人をかけて、ひとつのものをつくるっていう、非常に贅沢なことが実現しました。私にとっては、江戸意匠ってものすごい贅沢で、本業ではないんですけども、すごく楽しみにしていることなんです。
菅野 また最近、江戸意匠のオファーがすごいのよ。
ミヤケ あら! いいじゃないですか。
菅野 またやりたいなとは思ってるんだけどね。
ミヤケ あの、早めに教えてください。(笑)
菅野 早めにね。(笑) 是非またよろしく。
ミヤケ よろしくお願いします。
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。