第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。

菅野 海外に暮らしてみて、私はやっぱり日本人だなって思ったことってありますか?
ミヤケ うーん。常にずっと日本人ですけどね。(笑)
菅野 うん。(笑)
ミヤケ 私、もともと西洋文明に対する憧れがあまりないんです。
菅野 あぁ。
ミヤケ パリは、一言もフランス語しゃべれないで行っちゃったんですけど、そういうことに対してあまりビクビクしないんですよね。「当たり前じゃん! あたし日本人なんだし。」みたいな。(笑)
菅野 あはは。(笑)
ミヤケ 「お前だって日本語しゃべれないだろう。」みたいなかんじですね。
菅野 フランス人だって英語絶対話さないしね。
ミヤケ うん。だからフランス人も、「まぁ僕だって、日本語も英語もしゃべれないしね。」っていうかんじで、私に対していじわるなかんじはなかったですよ。
菅野 1年間暮らしてて、誰か通訳いなかったの?
ミヤケ うん。
菅野 どうやって暮らしてたの?
ミヤケ うん。やっぱね、あれです。関西のおばちゃんは、関西弁で通じるじゃないですか。同じなんです。要は、気は心なんですよ。気持ちを込めて言えば通じるんです、日本語で。(笑)
菅野 えぇ!? ほんとに?(笑)
ミヤケ ほんとにそうなんです!
菅野 はぁー。
ミヤケ でも、ほんとに困ってると誰かしら助けてくれる。通りすがりのおばちゃんとか、英語が喋れるおじちゃんとか、日本語が喋れるお兄さんとかが来て、「どうしたの?」って。そしたらジェスチャーで説明して、助けてもらう。(笑)
菅野 いや、さすが。(笑) じゃあ、家にずっと籠ってたわけじゃないのね。
ミヤケ 基本的には学校と家の往復なんですけど、やっぱり食べ物買いに行ったりとか、クリーニング出したりとか、丈ツメしなきゃいけないとか、いろいろ生活に必要なことってあるじゃないですか。
菅野 そりゃそうだよね。(笑)
ミヤケ そういうときは、困っても諦めないってことですね。例えば、パン屋さんに行くじゃないですか。喋れないとは言え、学校で勉強してるから、「これ、ください」みたいなことは言えるんです。でも、「温めるの?」とか言われるともうわかんない。「え?」っていうかんじで固まるじゃないですか。
菅野 うん。(笑)
ミヤケ 朝とかだと、お店も忙しいから、「はい次!」みたいなかんじでとばされちゃうんです。ボーっと立ってる私の前を、みんな次々に欲しいもの買って帰って行くんです。でも私、喋れないから仕方ないと思ってずっと待つんです。
菅野 うんうん。
ミヤケ ずっと待ってると、向こうも申し訳なかったみたいなかんじで、手が空いたときに、「こうなの?」「ああなの?」とか言ってくれる。
菅野 なるほど。
ミヤケ 見兼ねた後ろのおじさんが、「この子とばされてかわいそうだけど?」とか言ってくれる。そうすると、「だってこの子フランス語喋んないのよ。」となって、「そうなの?」って英語で通訳してくれて、「あれが欲しいらしいよ。」とか言って教えてくれたりする。だからまぁ、自分的にはそんなに困らないで生活できてたんです。
菅野 うーん。
ミヤケ だけど、この話したら、普通の人は恥ずかしくて帰るんだって。(笑)
菅野 そうだよねぇ。(笑)
ミヤケ 私みたいに、10分も20分もぼーっと立ってないらしい。(笑) だから、諦めなければ大丈夫。
菅野 なるほどねぇ。人の輪にもすぐ入って来れるタイプでしょ?
ミヤケ けっこう人見知りするんですけど。
菅野 そうなの? 江戸意匠のときも火の道具展のときも、そんなかんじはしなかったんだけど。
ミヤケ ま、見られないですけどね。だけど、あんまり人前出るの好きじゃないですね。
菅野 そうなんだ。
ミヤケ だから、基本的にはずーっと家で描いてますし、1ヶ月ずーっと誰にも会わないで製作してるのも、全く苦にならないです。呑みに行きたいとか、人と喋りたいとか、そういう気は全くないです。ただ、人に質問されたり、用事をこなすとかそういうのは、普通にできますよ。(笑) 多少迷子にはなったりしますけど。
菅野 そう。マイさんって、方向音痴だよね。(笑) フランスでよく道に迷わなかったなと思って。
ミヤケ いやもう迷いまくってましたよ。(笑)
菅野 やっぱり!
ミヤケ 学ちゃんに電話して、「今どこにいるのかわからない!」って。
菅野 いや、すごいわ。(笑)
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。