第5話 現物で指示するパターン。

ミヤケさんはどんな風に進められたんですか?
ミヤケ 私は自分が作家なので、やっぱりつくる人の気持ちがわかるのもあるし、もともとミリ単位での製図とかディレクションができないので。
菅野 うんうん。
ミヤケ もともと自分がやってるスタイルっていうのは、職人さんの所に行って、職人さんがやってるのを見て、「あ、そこで止めてください」とか、「もうちょっと右に出してください」とか、「もうちょっとこういう風に薄くしてください」とか、現物で指示するパターンなんです。
菅野 あぁ、なるほど。
ミヤケ 職人さんの作品の中の、このエッジの感じでやってくださいとか、自分の前につくったモノとかを見せて、こういう色を出してほしいとか、現物でやります。そもそも、ミリ単位っていうのが私の中にないので、職人さんと共通のプラットフォームにいるんです。「もうちょい薄い感じでしょ?」「そうそうもうちょっと薄い感じ!」とか。
菅野 おもしろいなぁ。
ミヤケ そういう感覚的なところで言語が行き来するので、その分足は運ばなきゃいけないんですけど。
菅野 全体を見てておもしろかったのは、マイさんの足の運び方と、プロダクトデザイナーの足の運び方は、タイミングが違うんだよね。
どう違うんですか?
菅野 マイさんの場合は、下準備のときに行くわけ。だからこそ、ここをもうちょっと薄くしてとか言えるんだと思うんだ。出来上がる前にけっこう行ってたよね。
ミヤケ うん。行って、ディレクションを全部出してましたね。
菅野 一方プロダクトデザイナーは、試作ができあがった段階で見に行く。で、できあがった試作を見ながら、こう違う、ああ違うって指示をしていくんだよ。やっぱりね、モノづくりの時間が全然違うんだなぁって思った。
ミヤケ 私がつくる人間なので、自分なりに理解して、解釈してつくったものをダメ出しされると、気持ちが萎えるってことを知ってるんです。だから、叩くとこは最初に叩くっていうか、「これはないです」「こっちでやります」っていう風に伝えます。
菅野 なるほどね。
ミヤケ そこを、どれだけきっちり職人さんに伝えるかっていうのは、私の仕事ですごく重要なんです。
菅野 うんうん。
ミヤケ やっぱり、上がってきたモノを直すとなると、コストもかかるし時間もかかる。何より、つくる人間の気持ちが萎えるっていうことを、自分が一番よくわかっているので、なるべくそのリバイスっていうのは減らすようにしてます。
菅野 うん。
ミヤケ その代わり、自分の中で自信がないとき、例えば、この厚さとこの厚さでどっちがいいか、私も職人さんもわからないっていうときは、一番はじめに、2つつくってくださいってお願いします。多めにつくってもらって、でてきたものから取捨選択していくっていうやり方をしてます。
菅野 マイさんは、ゴールが一番早かったね。
ミヤケ 私はなんのトラブルもなく、作り手さんも非常に上手な方で、かつ私の作品のテイストとかもすごくきちっと読み込んでくださっていたので、私が思った以上に、私の頭の中に描いていたものが、そのまんまできてきたんですよ、全部。
菅野 うん。
ミヤケ なので私は非常に楽しかったです。(笑) ごめんなさい。もう素晴らしい! みたいなかんじでした。(笑)
菅野 非常に楽しくなかった。(笑)
ミヤケ 菅野さんは、調整役で入られてたから特にね。ご自分がデザインをされてなかったから、楽しい部分がなくて、余計に負の労働が多かったんですよ。
菅野 もう、クライアントとのやりとりだけで相当疲れた。今思うと、どうせあれだけしんどい思いをするなら、自分もつくっときゃよかったなって。
ミヤケ そうですよね。自分がつくってれば、つくった楽しみとかがあって、それで報われるというか。
菅野 でもさ、マイさんの作品が実際にできあがってきたときはびっくりしたよね。例えばあの、鍋の蓋の湯気があがってくる穴が「喜」という文字になってたりね。
ミヤケ そうですね。
菅野 鍋の蓋の裏側の誂え方とかね、あれはやっぱりプロダクトデザイナーじゃ絶対に思い浮かばないアイディアだよね。はぁーなるほどなぁー! って、すごい勉強になったよ。たぶんみんな勉強になったと思う。
ミヤケ えぇー、そうですか?
菅野 しかも売れたもんね。
ミヤケ 私は品目も多かったんですよ。あと、人によってロットが全然違うっていうのもよかったと思います。
菅野 そうだね。
ミヤケ いっぱいつくれる作家さんと、プロダクトデザイナーさんのチームがあって、一方で私みたいに、そんなにいっぱいはつくらないけど凝ったもの作りたいっていう人とか、いろんなチョイスがあっておもしろかったなぁ。
菅野 出てきた作品はものすごいおもしろかったんだけど、売れたかと言うとね。
ミヤケ ちょっと時期が悪かったですよね。暑い時期に鍋は。
菅野 8月に鍋やったらいかんわ。やっぱり。
ミヤケ あれ冬だったら、倍は売れてましたね。
菅野 そうだね。(笑)
第1話 プロダクトデザイナーって真面目ですね。
第2話 盲蛇に怖じず。
第3話 画廊さんが牧羊犬で、私たちは羊。
第4話 空中分解するんじゃないかと思った。
第5話 現物で指示するパターン。
第6話 自分が欲しいものをつくってる。
第7話 私、サバティカルで。
第8話 悪くてもドロー。
第9話 センスがない人は、お金があっても意味がない。
第10話 お前だって日本語しゃべれないだろう。
第11話 売れないって言われてるメディアムで勝負してやる。
第12話 みんなそういう要素があるのかもしれない。